歪んだ心にグサリと刺さる 『勝手にふるえてろ』が描くリアルすぎる“こじらせ女子”

『勝手にふるえてろ』は歪んだ心に刺さる

 キラキラしている“あの子たち”と同じ写真アプリを使っても、人生までは加工することはできない。たとえ制服を脱ぎ去ったとしても、青春の歪み(ゆがみ)は、なぜか一生付きまとってくるのだ。

左から、“イチ"とヨシカと“ニ" (c)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会

 現在公開中の映画『勝手にふるえてろ』は、松岡茉優演じる24歳の“こじらせ女子”ヨシカが、中学時代から10年間脳内で片思いを続けている“イチ”(北村匠海)と、ヨシカに猛烈アタックを仕掛ける会社の同期“ニ”(渡辺大知)との間で揺れるという恋愛コメディー。“イチ”と結ばれれば願いは叶うが「嫌われたらどうしよう」という不安がおまけで付いてきて、“ニ”と付き合えば毎日楽しいだろうがヨシカの10年間が無駄になってしまう。理想と現実の選択にもがき苦しむ喪女(もじょ)をリアルに描いた作品だ。

 ヨシカの学生時代は華やかとは程遠い。休み時間でも机で漫画を描いているタイプで、同窓会を開いても「あの子、誰だっけ」と忘れ去られているスクールカースト最底辺で生きてきた女の子だ。歪んだ青春の中で見つけた一筋の光である“イチ”から話しかけられた思い出を、何度も何度も脳内に召喚し10年間も恋心を引きずっている。

 愛とは不思議なもので、排泄物のように体から出さないといけないようにできているらしい。恋人も友達もいないヨシカの人生であり余った愛情は、脳内の“イチ”と、“絶滅した動物をネットで調べること”に放出され続けてきた。われわれ”こじらせ人間”は、みんなと違った何かを愛することで自分の中に“特別感”を見出し、溢れ出る劣等感からどうにかして自分を守りながら生きていく。

 高校を卒業してしまえば、スクールカーストの勾配はなだらかになっていくゆえ、例え“陰キャラ”として青春時代を過ごしても、たいていは垢抜けていくし、気持ち悪がられていた趣味も“センス”として認められるようになる。例に漏れずヨシカも、中学時代にボサボサだった髪を整え、ファッションも今風になっていった。

 しかし、青春の歪みはそう簡単には治らない。ヨシカの身なりは整っているように見えるが、履いている靴はくたくた。靴には深層心理が現れるといわれており、ナンパ師も顔や服は手入れされているのに、靴やカバンまでには目が行き届いていない“ぬかりある”女性をターゲットにすることがあるらしい。生粋のモテ女とは程遠い”こじらせ人間”は、あの手この手でキラキラ女子たちに近づこうと努力はするものの、あと一歩が足りず、あちら側に行くことができない。本作には、”こじらせ人間”が胸を締め付けられる“あるある”が無数に散りばめられていた。

(c)2017映画「勝手にふるえてろ」製作委員会

 そんなヨシカだが、ある日光り輝くヒールに履き替える機会がくる。“イチ”を含めた上京組で、タワーマンションに住むキラキラ同級生たちと鍋パーティーを開くのだ。物理的にも精神的にも背伸びし、期待に胸を膨らませる彼女だったが、案の定蚊帳の外に。しかし、みんなが寝静まったあと、“イチ”とヨシカは絶滅した動物の話で意気投合する。最初は緊張してよそよそしかったヨシカだったが、絶滅した動物のことになれば話は止まらない。ヨシカの熱狂的なオタク独特の話し方には、自他共に認めるモーニング娘。のファンである松岡の手腕を感じさせられた。

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