年末企画:成馬零一の「2017年 年間ベストドラマTOP10」 朝ドラ一人勝ちの時代が終焉

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2017年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は地上波および配信で発表された作品から10タイトルを選出。第3回の選者は、ドラマ評論家・成馬零一。(編集部)

1.『架空OL日記』(日本テレビ/読売テレビ)
2.『監獄のお姫さま』(TBS)
3.『お母さん、娘をやめていいですか?』(NHK)
4.『ハロー張りネズミ』(TBS)
5.『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~THE THIRD SEASON』(フジテレビ)
6.『カルテット』(TBS)
7.『やすらぎの郷』(テレビ朝日)
8.『ひよっこ』(NHK)
9.『おんな城主 直虎』(NHK)
10.『ぼくは麻理のなか』(フジテレビ)

 

架空OL日記 DVD-BOX

 『架空OL日記』は、とにかく表現として斬新で、バカリズムの脚本と住田崇監督のクールな演出が見事に融合した作品。前作『住住』で、確立した会話劇はエポックメイキングで、ついにバカリズムにしか書けないドラマが生まれたと思う。

 『監獄のお姫さま』は時系列をパズル的に見せることを連続ドラマで見せる大胆さをまず評価する。描かれている内容も、シリアスでありながらコミカルという宮藤官九郎の作風をアップデートすると同時に「おばさん」という言葉を誰が言うかによって生じるジェンダーの問題に関連した気まずさ、それ自体をドラマのテーマにしているのが見事。

 『お母さん、娘をやめていいですか?』は、今年のドラマで盛り上がった毒母問題にいち早く切り込んだ問題作。何より斉藤由貴が演じる母親役が圧倒的。『ハロー張りネズミ』は、個人的に探偵事務所の人間関係や仕事に対する考え方が好きで何度も繰り返し見ていた。『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~THE THIRD SEASON』は、月9の今後を占う上で重要な作品。安達奈緒子は仕事の面白さを麻薬的な快楽として描ける稀有な脚本家。

 ここまでは個人的に好きだった作品を素直に選んだ。おそらく6〜9位に並べた作品の方が世間的には話題作だったのではないかと思う。

 『カルテット』は『監獄のお姫さま』と並んで、TBSの火曜夜10時枠というブランドを証明したドラマ。SNSでの盛り上がりも含めて、極めて現代的な作品だった。とはいえ、この枠は別格で、今のテレビドラマは毎週1時間放送される1クールの連ドラは力を失い、その代わり朝ドラのような半年に渡って毎日放送されるものが圧倒的に支持されている。

 その意味で2010年代は朝ドラ一人勝ちの時代だったと言えるが、その終わりが見えたのが今年ではないかと思う。理由の一つとしてはテレビ朝日が昼の帯ドラマを放送し、そこで昭和芸能史を下敷きにしたドラマを放送し始めたこと。『やすらぎの郷』は巨匠、倉本聰の新作ということもあって別格だったが、次の『トットちゃん!』(テレビ朝日系)となると朝ドラよりも朝ドラっぽい。対して本家の朝ドラはかつてのような冒険ができなくなってきている。『ひよっこ』が描いた見ている人を傷つけない優しい世界観は、今まで朝ドラがやってきたことの完成形だが、ここから先は行き止まりだとも感じた。

 おそらく朝ドラが、未整理だったがゆえに問題作を生み出してきた時代は、これで終わる。今後も視聴率は高値安定だろうが、時代を切り開くような作品は大河ドラマに移って行くのではないかと思う。『ごちそうさん』(NHK)の森下佳子が書いた『おんな城主 直虎』はその成功例で、今後、中園ミホ、宮藤官九郎が続くことを考えると、2010年代上半期に朝ドラで培った人脈がそのまま大河に続くことになるのだろう。

 『ぼくは麻理のなか』は、日本のドラマでは描かれにくい性欲の描写を思春期の鬱屈を通して描いたことを高く評価。映像も綺麗で、主演の池田エライザもエロい演技をちゃんとしている。FODでの配信が先だったがこういうドラマがテレビで見られることに可能性を感じる。若い人に是非、見てほしい。

【TOP10で取り上げた作品に関連するレビュー】
『コード・ブルー』の成功は月9を変えるか? 賛否両論を呼んだ作風の意義
『ひよっこ』有村架純は新しい朝ドラヒロインだ 脚本家・岡田惠和の狙いを読む
『カルテット』が描こうとする“夢と才能”の問題 坂元裕二は現代日本をどう切り取る?
大河ドラマは朝ドラ並の人気を獲得できるか? 『おんな城主 直虎』森下佳子の脚本を考察

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

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