年末企画:荻野洋一の「2017年 年間ベスト映画TOP10」 映画それじたいを擁護していきたい
やや乱暴に総括するなら、ここに挙げた10本はいずれも、座礁した孤独な精神としてあり、孤立し、混乱し、絶望に打ちひしがれながらも、なんとか立ち続け、幸も不幸も一身に引き受ける、そんな健気な映画たちである。かつてゴダールは「ただ映画だけが」と自信たっぷりに放言しながらも、途中で中断するその言葉のうちに、映画だけが何かをなし得ることを口こもりがちに示唆しようとした。「映画だけが」幸福と不幸のはざまを具体的に示しうる。「映画だけが」映像と音域の対位法によって、自我と宇宙のバランスを見出しうる。「映画だけが」戦争の悲惨を、平和のうつろいやすさを、信仰の敬虔と欺瞞とを、友情の温かさを、休息の安らかさを、身をもって体現しうる。そんなゴダールの格言を取っ替え引っ替え反芻しつつ、映画それじたいを擁護していきたい。ここに挙げられた10本は、そのささやかな擁護の10本としてある。
TOP10で取り上げた作品のレビュー
・“17歳の大林宣彦”による映画への誓い 荻野洋一の『花筐/HANAGATAMI』評
・荻野洋一の『甘き人生』評:巨匠マルコ・ベロッキオが描く“苦い”夢
・荻野洋一の『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』評 絶望の浄化の先にあるもの
・『ネルーダ 大いなる愛の逃亡者』は複雑かつ美しいーーパブロ・ララインが描く鋭利なるミステリー
■荻野洋一
番組等映像作品の構成・演出業、映画評論家。WOWOW『リーガ・エスパニョーラ』の演出ほか、テレビ番組等を多数手がける。また、雑誌「NOBODY」「boidマガジン」「キネマ旬報」「映画芸術」「エスクァイア」「スタジオボイス」等に映画評論を寄稿。元「カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」編集委員。1996年から2014年まで横浜国立大学で「映像論」講義を受け持った。現在、日本映画プロフェッショナル大賞の選考委員もつとめる。
■公開情報
『花筐/HANAGATAMI』
有楽町スバル座ほかにて公開中
監督・大林宣彦
原作:檀一雄
脚本:大林宣彦、桂千穂
エグゼクティブプロデューサー:大林恭子
出演:窪塚俊介、満島真之介、長塚圭史、柄本時生、矢作穂香ほか
配給:新日本映画社
(c)唐津映画製作委員会/PSC 2017
公式サイト:http://hanagatami-movie.jp/