青柳翔が語る、チャン・チェンらアジア俳優との共演 「言葉が通じなかったからこそ集中できた」
「『HiGH&LOW』シリーズの九十九(つくも)は、自分で演じていて言うのもなんですが、不思議な人物ですよね(笑)。駐車場での格闘シーンで、普通なら相手の攻撃を避けるところを、なぜか車輪止めを使ってかわしてみたり、ナイフをもって襲ってくる人に対して、鉄板で対抗してみたり。よく車に轢かれるし、逆に大破しちゃったりもする。そういう風に読めない行動をするところが、面白がられているのでしょうね」
いま、映画・ドラマ界でミステリアスな存在感を発揮し、幅広い世代から熱心なファンを獲得している俳優がいる。劇団EXILEのメンバーである青柳翔だ。2015年から始まったLDHの総合エンタテインメント・プロジェクト『HiGH&LOW』シリーズでは、伝説のチーム「ムゲン」の元メンバーである九十九を演じ、その掴み難い独特のキャラクターが話題に。先月11月に終了した異色グルメドラマ『目玉焼きの黄身 いつつぶす?』では、主演の田宮丸二郎役を好演。ごく真面目なキャラクターながら、はたから見るととても滑稽な役どころで、新境地を開拓中だ。
そんな青柳が、『蟹工船』や『天の茶助』などの作品で海外でも支持を得ているSABU監督の最新作『MR.LONG/ミスター・ロン』に出演すると聞き、リアルサウンド映画部では本人にインタビューを行った。取材場所に現れた青柳は、寡黙でおだやかな印象だが、同時に芯の強さを感じさせる眼差しをしていた。
「もともとSABU監督の作品は好きだったので、出演したいという意思は強くありました。SABU監督の作品は題材が題材だけに、重々しさもあるのですが、ところどころにユーモアを交えてちゃんとエンタテインメントに仕立て上げられているのが好きです。それと、登場人物が走るシーンの描写には、SABU監督ならではの特色があって、そこにも惹かれますね。『MR.LONG』は台本を読んだ時点で衝撃を受けました。ショッキングなシーンもあるけれど、同時に人とのつながりの大切さや、愛が障害を乗り越えることを教えてくれる。一観客として観ても、グサッと刺さる映画だと感じました」
『MR.LONG』は、台湾の腕利きの殺し屋・ロンが日本での任務に失敗し、追われた先の村で少年ジュンと母リリー、そしてちょっと変わった村人たちと出会い、徐々に人間らしさを取り戻す“ハートウォーミングバイオレンスストーリー”。主人公のロンを演じるのは、『クーリンチェ少年殺人事件』で主演を務め、世界的な人気を誇る台湾俳優のチャン・チェン。青柳は、イレブン・ヤオ演じる母リリーの元恋人で、命がけで彼女を救おうとする青年・賢次を演じている。
「賢次はリリーと出会うまで、生きる目標もなく、ただ無為に日々を過ごしていたような人物で、世の中に対して苛立ちのようなものを抱えていました。何に対しても反抗的で、ひねくれているけれど、かといって頭が良いわけでもない。ひとつの言葉を覚えたら、ずっとそれだけを口にしているような奴です。でも、リリーと出会って人生が変わる。人を愛することを知って、幸せがどんなものかを理解するんです。だからこそ、彼女との関係を壊されたとき、彼は命がけで相手に立ち向かっていきました」
賢次とリリーは、ほとんど言葉が通じない。しかしながら、孤独だった二人は運命的に惹かれあい、お互いを求めるようになる。賢次はたったひとつだけ覚えた中国語「我愛你(愛してる)」を、何度も繰り返す。
「リリーを演じたイレブン・ヤオさんとは、本当に言葉が通じなかったからこそ、ものすごく集中できたし、リアルなやり取りができたと思います。正直、ずっと『愛してる』って言い続けるのは、中国語とはいえ気恥ずかしいものがありましたが、監督に『大丈夫、音楽入れるから』って言われて(笑)。どうせ最後には突き落とすから、思いっきりやってくれという指示の通り、全力で彼女を愛しました。向こうの俳優さんは、良い意味で演技が大きくて、感情をストレートに表現します。日本では内へ内へと向かう演技が求められることが多いですが、それとは真逆のアプローチで、とても新鮮でした。一番最初の撮影で、チャン・チェンさんとも共演させていただいたのですが、彼もジェスチャーを交えながらコミュニケーションをしてくれたので、とてもやりやすかったです」
ワンカット、ワンカットがノンストップで流れるように繋がっていき、疾走感のある作風となるSABU監督ならではの撮影手法にも、青柳は刺激を受けたようだ。
「すべてのシーンで絵コンテがしっかり描かれているんです。ほかの現場ではあまり経験したことのないやり方だったので、それに沿うように感情を出していくのはひとつの挑戦でした。でも、監督には現場で『もっと自然で良いよ』と仰っていただいて、すごく助かりました。じっくり長回しで撮るシーンもあったのですが、それも流れるように進んでいって。しっかりと絵は決めてあるけれど、僕ら俳優の流れもちゃんと汲んでいただいたという印象です」
ところで、青柳は劇団EXILEのメンバーであり、『HiGH&LOW』、『たたら侍』、そして『MR.LONG』と、このところLDH pictures配給作品に連続で出ている印象だ。町田啓太、鈴木伸之、佐藤寛太など、最近の劇団EXILEメンバーの活躍には目覚しいものがあるが、青柳自身は劇団EXILEの中でどんな立ち位置にいるのだろうか?