『イット』『ゲット・アウト』軒並み大ヒット! ハリウッドでホラー映画がリバイバルした背景

ハリウッドのホラー映画リバイバルを考察

 これらホラーのリバイバルを語るにあたって、アメリカのプロデューサー、ジェイソン・ブラムの存在を外すことはできない。彼は『パラノーマル・アクティビティ』シリーズをはじめ、『インシディアス』、上で何度も述べた『スプリット』や『ゲット・アウト』など、数多くのホラー映画で成功を納めてきたが、同氏はプロデューサー主導による映画製作が多いハリウッドにおいて、監督にクリエイティブ面での最終決定権を与えることで、ストーリーの質を高く保とうとしている。彼が手がけ、10月13日の金曜日に全米公開された『Happy Death Day』(日本公開未定)は、「アメリカの女子大生がタイムループにはまり、自分が何者かに殺される日を延々と繰り返す」というコンセプトがきわめて明確な作品で、公開直後の週末の興行収入では、公開2週目の『ブレードランナー 2049』を退け、全米第1位のヒットとなった。

 ハリウッドでは、ジェイソン・ブラムの名は低予算で、かつエッジのきいたホラー映画を成功に導くプロデューサーとしてよく知られている。彼は、これまで手がけた作品について、『パージ』(2013)にしろ、『パラノーマル・アクティビティ』にしろ、誰も引き取りたがらない作品を手がけてきた、と話している。ホラーは過去のヒット作が証明してきたように、アイディア次第では低予算で作ることができ、スター俳優を起用せずともヒットの可能性がある数少ないジャンルであると言われているが、言い換えると、プロデューサー側は非常に低いリスクで製作が可能ということになる。そこで彼は、ハリウッドでまだあまり知られていない監督・脚本家によるホラー作品に500万ドルほどを出資し、監督のクリエイティブ面での自由を尊重しながらも、作品を商業的成功に導く役目を請け負う。当たれば大きく、外れても大きな損害とはならない。そうやってジェイソン・ブラムは、独特のビジネスモデルを確立した。

 ホラー映画は長い間、映画館に足を運ぶメインの層である若いオーディエンスにぴったりのジャンルであり続けてきたが、近年のリバイバルでは、様々な社会問題やより多面的なキャラクターといった要素を加え、ストーリー自体も魅力的な作品として進化した。これまでホラー映画がアカデミー作品賞から冷遇されてきたのも、このストーリーの深みと無関係ではないはずだが、ジャンル全体として新たな境地に達したことをハリウッドが目の当たりにしたことで、例えば『ゲット・アウト』はこれからアメリカで本格化する賞レースにおいて、善戦する可能性も囁かれている。2018年以降も『ハロウィン』のリブートや『ストレンジャーズ/戦慄の訪問者』の続編『The Strangers:Prey at Night(原題)』(日本公開未定)といった期待作が控えているが、このリバイバルはまだ続きそうだ。

参照

Box Office Mojo
http://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/why-2017s-hit-horror-movies-are-just-beginning-revived-genre-2017-1054515
https://www.nytimes.com/2017/10/26/movies/top-horror-movies-box-office-it-get-out.html?_r=0
https://www.hollywoodreporter.com/news/nbcuniversal-signs-producer-jason-blum-719860
https://www.hollywoodreporter.com/heat-vision/happy-death-day-why-horror-movies-are-terrifying-hollywood-studios-1048986
http://variety.com/2017/film/news/jamie-lee-curtis-halloween-finale-set-2018-1202560418/

■田近昌也
北海道出身。上智大学外国語学部卒。東京でインテリアの営業を経て、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院プロデューサー科を修了。その後メジャースタジオの長編映画企画開発部門などで経験を積む。

■公開情報
『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』
全国公開中
監督・脚本:アンディ・ムスキエティ
出演:ジェイデン・リーバハー、ビル・スカルスガルド、フィン・ウルフハード、ソフィア・リリスほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:itthemovie.jp

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる