『HiGH&LOW THE MOVIE 2』評論家座談会【後編】「国境を超えたら、状況が一気に変わる可能性もある」

『HiGH&LOW』評論家座談会【後編】

 成馬「『HiGH&LOW』の不良漫画的な世界は日本独特の文化」

成馬:ところで、『HiGH&LOW』の不良漫画的な世界って、日本独特の文化ですよね。番長みたいなのが殴り合って解決する、人が死なない、下手すれば血も出ないような話は、海外にはあまりない。海外作品で不良たちが争ったら、普通はもっと死人が出ると思うんですよ。

西森:韓国で不良ものってほとんど思い浮かばないんですよ。『火山高』や『友へ チング』、『ホーリーランド』って学園不良ものがありますけれど、『ホーリーランド』は日本の漫画原作だし。韓国で不良同士の暴力を描くと、軽いコミカルな感じじゃなくて陰惨なところも描かないとという感じがあるんじゃないでしょうか。それと、韓国では高校生は勉強するものって考えてるところがあるかなと。だから勉強ものの原作はリメイクされやすいです。

成馬:本来、RUDE BOYSの世界観は、『シティ・オブ・ゴッド』的な、ストリートチルドレンの世界なんですよね。ガンガン人が死んでいるし、窃盗などの犯罪もたくさん起きているはず。でも、『HiGH&LOW』を観る限り、そこまでの悲壮感はない。これはやっぱり、日本における銃の扱いなど、社会的背景が影響しているのかもしれません。

加藤:単純に日本は治安が良いですからね。日本で普通に暮らしていたら、命を奪われるような危険を経験することは滅多にないですし。

成馬:“人が死なないアクション”みたいな想像力って、すごく日本的だと思うんですけど、それが国境を超えた時に、どう受けいれられるのかが、気になります。

西森:最近だと『スパイダーマン:ホームカミング』では、悪役の人が間違った武器を使って人を殺しちゃうシーンはあったものの、それ以外にはどんなに大惨事があっても誰一人として死んでいませんでした。もしかしたら、ポリティカル・コレクトネス的に、人が死なないエンターテイメントが求められているのかもしれません。そう考えると、『HiGH&LOW』と世界的な流れって意外とつながってるのかなって。

加藤:実際のところ、『クローズZERO』はアジア圏で大ヒットしました。近年稀に見るくらい、アジアでドカンと当たった日本映画だったみたいです。アジア圏では日本の漫画が流通しているので、その流れで『HiGH&LOW』が受け入れられる余地はあるし、それこそ世界中の老若男女が楽しめるコンテンツになる可能性もある。なんなら勝手に、ルーカス・フィルムにデータを送りつけたい気分です。

西森:ぜひUSBで(笑)。

加藤:正直、『HiGH&LOW THE MOVIE』は、すごく粗削りな部分がありましたけれど、『HiGH&LOW THE MOVIE 2 END OF SKY』を観て、ちゃんと技術的に世界に通用するものが作れるんだって確信しました。脚本についても、前作に比べるとしっかり練られていて、余計な部分がなくなって、より幅広い観客に向けたものになっている。これからさらにノウハウを蓄積すれば、もっと映画として完成したものになるはずです。

西森:スピンオフで、どんどん新しい脚本家とか入れて欲しいですよね。台本を読めるスタッフがちゃんといて、新しい才能がどんどん集まるようになれば、さらに充実した作品になることは間違い無いかと。

成馬:キャラクターの造形だけがしっかりしていて、脚本がどんどんこじれていくというのは、日本の漫画の作り方に近くて、それはそれで醍醐味ではありますよね。

西森:たしかに、今の脚本は今の脚本で良いですよね。同時に、韓国映画みたいに、しっかりと三幕構成を取り込んで、ぐっと掴まれる……みたいなものも、全部じゃなくていいので、見てみたいんですよね。

加藤:もし、脚本があまりにも洗練されていったら、『HiGH&LOW』らしさが残らないかもしれません。それこそ、「隠蔽できるんだよ!」みたいなセリフが消えちゃう可能性もあるので、そのさじ加減はちゃんと見極めてほしいです。

成馬:仮に『HiGH&LOW』がアニメだったら、変なセリフも違和感なく見てたと思うんですよね。ところが生身でやっているから、良い意味で違和感がすごくあって、それがユニークな表現になっている。

西森:実際、生身の人間のキャラクター化はどんどん進んでいますよね。私たちは、『HiGH&LOW』に出ている俳優本人と、『HiGH&LOW』の中で演じたキャラクターと、CLAMPさんが描いた三次元のキャラクターと、一人の人を3つの次元で好きになっていたりして。最近、『HiGH&LOW』でチハル役の佐藤大樹さんが『錆色のアーマ』っていう「逆2.5次元」をうたう舞台に主演したりしていて。そこには、2.5次元の舞台の世界を引っ張ってきたネルケプランニングの松田誠さんがLDH ASIAの代表取締役CEOに就任している背景なんかもあって、更に発展していくんだと思いますけど。それにしても、いろんな次元をいったりきたりする試みを、まさかLDHが最先端としてやっていくなんてことは去年はまだ想像もしてなかったし、すごく日本ならではのエンタテインメントの進化だなと思います。

加藤:知れば知るほど面白くなるのは間違いない。僕もこの1年ぐらいでLDHのエンタテインメントを勉強していて、どんどん楽しくなっています。

西森:私もそうですね。もっとアクション映画見ようって思ったし。それに『HiGH&LOW THE MOVIE』を観た後に、すぐに三代目 J Soul Brothersのライブビューイングを観に行って、ジェシーや源治と本人を重ね合わせて見てしまいました。

加藤:去年の『HiGH&LOW THE MOVIE』を観て以来、三代目を見る時の目が完全に変わってしまって。岩ちゃんさんのこと、コブラだって思っちゃうんですよ。たぶん、藤岡弘を見た時に、仮面ライダーだって言う子どもと一緒で(笑)。三代目が夢のようなグループに見えてくるんです。“総合エンタテインメントプロジェクト”の凄さが、ようやく理解できました。

(取材・構成=松田広宣)

前編はこちら→『HiGH&LOW THE MOVIE 2』評論家座談会【前編】 「日本発クリエイティブの底力を見た!」

■公開情報
『HiGH&LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY』
全国ロードショー中
企画プロデュース:EXILE HIRO
脚本:平沼紀久、渡辺啓、福田晶平、Team HI-AX
監督:久保茂昭、中茎強
アクション監督:大内貴仁
出演:
【山王連合会】岩田剛典・鈴木伸之・町田啓太・山下健二郎・佐藤寛太・佐藤大樹・八木将康・岩谷翔吾・山本彰吾
【White Rascals】黒木啓司・遠藤雄弥・稲葉友・柳俊太郎・鬼龍院翔・喜矢武豊・歌広場淳・樽美酒研二/廣瀬智紀・松田凌・西川俊介・西村一輝
【鬼邪高校】山田裕貴・鈴木貴之・一ノ瀬ワタル・鈴木昂秀・龍/前田公輝/青木健・清原翔・陳内将
【RUDE BOYS】窪田正孝・佐野玲於・ZEN・永瀬匡・佐野岳
【達磨一家】林遣都・阿部亮平・小澤雄太/水野勝・田中俊介・守屋光治
【苺美瑠狂】小島藤子・工藤綾乃・楓・佐藤晴美・山口乃々華・城戸愛莉
【DOUBT】中村蒼・秋山真太郎・武田航平
【MIGHTY WARRIORS】ELLY・大屋夏南・野替愁平・白濱亜嵐・ANARCHY/NAOTO・関口メンディ―・LIKIYA・祐真キキ
【雨宮兄弟】TAKAHIRO・登坂広臣/斎藤工
【ムゲン】AKIRA・青柳翔・髙谷裕之・岡見勇信/井浦新
【九龍グループ・会長】津川雅彦・岩城滉一・岸谷五朗・加藤雅也・笹野高史・髙嶋政宏・木下ほうか・中村達也・早乙女太一
【九龍グループ・組員】小林直己/武田幸三・黒石高大/夕輝壽太/尚玄/橘ケンチ・小野塚勇人・白石朋也・荒木秀行/渡邉紘平
岩永ジョーイ・中谷太郎・JAY・武尊・城戸康裕
天野浩成・藤井萩花・藤井夏恋・坂東希・池上幸平・中井ノエミ・葉加瀬マイ
長谷川初範・渡辺裕之・矢島健一・堀部圭亮・斎藤洋介・鈴木梨央/YOU/飯島直子/豊原功補/小泉今日子
配給:松竹
製作:「HiGH&LOW」製作委員会
(c)2017「HiGH&LOW」製作委員会
公式サイト:http://high-low.jp

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