『HiGH&LOW THE MOVIE 2』評論家座談会【後編】「国境を超えたら、状況が一気に変わる可能性もある」

『HiGH&LOW』評論家座談会【後編】

 ドラマ評論家の成馬零一氏、女性ファンの心理に詳しいライターの西森路代氏、アクション映画に対する造詣の深い加藤よしき氏の三名が、『HiGH&LOW THE MOVIE 2/END OF SKY』を軸に、同シリーズを語り尽くす座談会の後編。「SWORD地区はモラトリアム空間」(成馬)、「日本の俳優界の未来を担う作品」(西森)、「琥珀さんを演じられるのは、AKIRAさんしかいない」(加藤)など、熱のある発言が次々と飛び交い、大きな反響を呼んだ前編に続き、後編では同シリーズの海外展開への期待などにも話が及んだ。自他ともに認める“HiGH&LOWバカ”たちの飽くなき討論は、さらに加速するーー。

西森「『HiGH&LOW』を楽しむには、「気持ち」をいかに持っていくかが大事」

加藤:今回の“ターミネーター”九鬼源治戦も、触れないわけにはいきませんね。

成馬:戦いのリアリティラインが違いますよね。

加藤:他のSWORDメンバーの乱闘シーンって、基本がケンカなんですよ。ケンカのアクションって、僕の説なんですけど、基本的に掴み合いが発生するかどうかだと思うんです。要は泥試合感が大事というか。琥珀さん対源治戦は、そういう泥試合ではなくて、バンバン殴り合っていて、そういう意味ではカンフー映画っぽいキレイな演出だと思いました。対して最後の乱戦は掴み合いがあってと、ケンカらしく仕上がっている。うまい具合に差別化に成功していました。

西森:あと、九十九さんが細かくいい技をいっぱいやってて。フロントガラスを割って車に入ったり、車止めで弾かれるのを免れたり。香港映画でも、助手席とか後部座席に足から突っ込んで入るってアクションはドニーさんもやっていて見たことがあったけど、フロントガラス割って入るのは個人的には初めてみました。久保監督が撮った三代目の『FIGHTERS』って曲のMVでも、青柳さんがすごいアクション見せてて、もしかしたらここら辺から始まってるのかなって思いました。

成馬:そういうシーンって脚本が先にあるのか、それとも現場で良い見せ場を思いついたからやるのか、どちらなんでしょうね? もしかしたら、物語の流れが時々おかしくなるのは、見せ場先行でシーンを足してるからなのかなぁと思ってるんですけど。やはり突っ込んでおかないといけないのは、USBメモリの扱いについてで(笑)。なんで彼らはUSBメモリをさっさと公開しなかったんでしょうね? 海外に行ったときにパッと出しちゃえば良いじゃん、携帯でやりとりしているんだから。あそこまで引っ張った理由がまったくわからない。あと、USBメモリに大事なデータ入れておかないで、Cloudに上げておけよって話。エンターキー押したことでいったいどこにデータを送ったのか、冷静に考えると釈然としないことが多い(笑)。

加藤:USBメモリを安全に入れる装置みたいなのも謎でしたよね。

成馬:あと、女ハッカーの古野が出てくる意味がわからない。パンフレットには、雨宮尊龍にUSBの暗号解除を依頼された縁で雨宮兄弟を助けるようになったって書いてるけど、すでにプロテクトが解かれてるなら、やることないじゃんって思ってしまった。基本的にUSBをパソコンに刺して送信してるだけですからね。

加藤:でも、あのエンターキーを押すシーン、僕は最高に好きですけれどね。“エンターキーをかっこよく押す映画”としては、『サマーウォーズ』を超えたんじゃないですか?

成馬:確かに映像はカッコいいんですけどね。あと、映画におけるパソコンの描写って、課題がありますよね。すごそうに見せるには、高速でキーボードを打ちまくったり、今回みたいに力を振り絞ってエンターキーを押したりするしかない。アニメ映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』の時代から進化してない。

加藤:リアルにプログラミングしたら、地味になるので、それじゃやっぱり画にならない。この問題は世界中のどの映画でも仕方がないところですよね。それにハイローは「こうしたらカッコイイ!」優先ですし……。

成馬:源治戦は全体的に、脚本よりも「こうしたらカッコイイ!」が勝った感じなんでしょうね。

加藤:たぶん、アクションシーンに関して、シナリオはたたき台ぐらいに考えているんだと思いますね。あと、長年ファンの間で議論されている琥珀さんUSBを早く公開すればいいんじゃないか問題ですが、僕なりに納得いく理由があって。たぶん、琥珀さん的に、あの役割は雨宮兄弟じゃなければいけなかったんですよ。合理性よりも、気持ちを大事にしたというか。琥珀さんが海外に行ってたのも、国内にいると追われるからで、雨宮兄弟がトラブルを解消するまで、隠れていたんじゃないかな。理屈はさておき、気持ちで納得しました。

西森:アクションに関しては、シナリオがあって、そこからアクションをキャラクターによってどうするかによってアクションチームが動作設計する、みたいな流れで、けっこう技術や美術とも関わるから、緻密にやっているのではないかなとは思うんですけどね。その上で、現場での判断もあるとは思いますけど。加藤さんが言われてるように、『HiGH&LOW』を楽しむには、「気持ち」をいかに持っていくかが大事だし、書かれていない部分を想像することはもはや喜びですよね。

成馬:不思議と琥珀さんのシーンについて語っているときは、精神論がまかりとおりますね。ところで、『HiGH&LOW』の住民たちは、意外にみんな仕事していますね。喫茶店とか、風呂屋とか、飲み屋とか。雨宮兄弟なんて、ヤバいブツの受け渡しとかしているし。親のスネをかじっているっぽいのは、達磨一家と鬼邪高くらい。

西森:達磨一家は祭りを仕切っていますから。たぶんテキ屋的なことをしてると見てもいいのではないかと。

加藤:あれはテキ屋と言うか何というか……まぁ、ふんわりした部分は、ふんわりしたままにしておくのも『HiGH&LOW』ですよ。話せば話すほど、雲をつかむような話が出てくる(笑)。『HiGH&LOW THE MOVIE 2 END OF SKY』は、前作に比べて間違いなく洗練されているんですけれど、冷静に考えると、おかしな部分はたくさんあります。作中の時系列にも謎が多い。

成馬:MUGENの解散から何年っていうのも、よく分からないですね。彼らの年齢的に考えると、半年ぐらいなのかな。去年、『HiGH&LOW』を読み解くムック本を作ったんですけれど、年表を作ってみようと思ったら、作れば作るほどわからなくなっていくんですよね。地図もかなりアバウトで、日本の隣にタイがあるようなイメージ(笑)。

西森:でも、今のユーザーって皆、作品に描かれていない部分があったとしても、それを自分なりに補完するのが好きじゃないですか。たとえば2.5次元の舞台なんかは、ファンタジーの壮大な物語を表現するものも多いから脳内で補完しなければ付いていけない世界がはじめから展開されています。ファンタジーだけじゃなくて、ボールがなくても仕合の流れを見るし、サドルがなくても自転車を見ているように観客自身が持っていく。いわば、観ている側の想像力を引き出してくれる作品が求められているし、それを楽しんでいる。『HiGH&LOW』は映画だから、ちゃんと道具や情景はあるけど、想像力を求められる余白があるから、いろんな方面からファンを引き寄せたのも納得です。

成馬:『HiGH&LOW』のおかしいところは、ほとんど琥珀さんに帰結していくんですよ。だから、『HiGH&LOW』を琥珀さんの私小説のようなもの、つまりはHIROさんの私小説のようなものとして見ることもできる。そうすると、夢みたいなものだから、多少歪なところがあっても全然良くて、その夢の中に閉じ込められた人々が、どうやってその世界から脱出するかという物語として捉えることができる。それって、かつてのオタク的な作品が描いてきたことであって、そういう文脈でもオタク向けのコンテンツといえそうです。

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