斉藤由貴が放つ“負のオーラ”の凄み! 『三度目の殺人』の恐ろしい演技を振り返る

斉藤由貴が放つ“負のオーラ”

 『三度目の殺人』で見せる、娘・咲江(広瀬すず)との母娘関係もどこかおかしく、恐ろしい。台所に立つ娘に背後から身体を密着させ、言葉を交わす場面である。美津江の甘えた声と、咲江の妙に冷めた口ぶりに、母娘関係が逆転しているようにも思えてくる。しかしこの空間を支配しているのは、完全に美津江の方だろう。彼女の粘着質のある声は、発するセリフにいくつもの意味が感じさせる。場をリードし、些細な仕草で、美津江の中に“少女”と“女性”が同居しているかのような姿を垣間見せるのだ。

 筆者がもっとも彼女に対する混乱を極めたのは、法廷内の傍聴席はしの方に、その姿をみとめたときである。その場からセリフを発することなど1度もないが、彼女が最も負のオーラを纏い、放っているのは、間違いなくこの場面だ。先の場面で母娘の会話を目撃しているにも関わらず、彼女がここで見せる被害者遺族としての表明には言葉を失う。真相は闇の中をさまよい、言葉ばかりが飛び交う中、彼女の伏し目がちな姿は、これから先、法廷モノの作品に触れるたびに蘇ってきそうだ。今後の出演が決まっていた作品から、次々と降板発表となっていることが実に悔しい。本作は斉藤由貴の“セリフに頼らない凄み”に触れることができる、見逃してはならない一作だろう。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。

■公開情報
『三度目の殺人』
9月9日(土)全国ロードショー
監督・脚本・編集:是枝裕和
音楽:ルトヴィコ・エイナウディ
撮影:瀧本幹也
美術監督:種田陽平
出演:福山雅治、広瀬すず、吉田鋼太郎、斉藤由貴、満島真之介、市川実日子、橋爪功、役所広司
製作:フジテレビジョン アミューズ ギャガ
配給:東宝、ギャガ
(c)2017フジテレビジョン アミューズ ギャガ
公式サイト:gaga.ne.jp/sandome

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