速水健朗の『カーズ/クロスロード』評:「グローリー・デイズ」が照らす、80年代アメリカの栄光と転落
マックィーンがチャンピオンに君臨できた時代は終わった。根性で大逆転して最後に大勝利を収めるというのは、ハリウッド映画ではよくある展開とはいえ、シナリオの緻密さで知られるピクサー作品においてさすがにそれはあり得ない。
シナリオの緻密さという部分でもうひとつ。マックィーンがたどり着いたバーにいた伝説のレーサーたちも、マックィーンの抱える問題に根本的な解決法をもたらすことはない。楽しそうな余生は送っているが、彼らはとっくに今の時代に付いていけなくなっている連中なのだ。この辺は、かなり意図的なのではないか。「年上のアドバイスはいつも有効だ」というのは、ハリウッド的なマンネリズムのひとつだが、必ずしも実社会はそうとは限らない。引退したベテラン世代が幅をきかせている社会(=シルバー民主主義)を繰り返さない。そこは意図的なはず。
では、映画はどのような結末を迎えるのか。ここではもちろん触れない。実際に作中で確認して欲しい。「メイク・アメリカ・グレート・アゲイン」。大統領のトランプ(71歳)が、自動車産業を復活させることでもう一度、アメリカを復活させようと登場しても、誰もがその路線での復活は現実的でないことを知っている。さてアメリカ(と自動車産業)の未来はどうなるか。
エンドロールでもう一度「グローリー・デイズ」が流れたらやばいな、これは泣きそうだなと思って映画を見終えた。僕は中学生の頃に好きでずっと『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』 のアルバムを聞いていたからちょっと特別な感情があった(グローリ〜・デ〜イ♪)。ボーン・イン・JAPANな自分にはスプリングスティーンは、本質的には理解できない歌手なのだよなという意識も常にあった。だが『カーズ/クロスロード』で、一瞬だけ登場してきたこの曲に反応してしまうくらいには、彼の世界が身に染みついていた。当時聴いていたときよりも、少しは深いところまで理解できるようになっただろうか。
■速水健朗
1973年生まれ。雑誌編集者を経てライターに。著書『タイアップの歌謡史』『1995年』『フード左翼とフード右翼』『東京β』『東京どこに住む?』ほか。ラジオ番組『速水健朗のクロノス・フライデー』(TFM)などのパーソナリティーのほか、テレビのコメンテーターとしても活躍中。
■公開情報
『カーズ/クロスロード』
全国公開中
監督:ブライアン・フィー
製作総指揮:ジョン・ラセター
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2017Disney/Pixar.AllRightsReserved.
公式サイト:http://www.disney.co.jp/movie/cars-crossroad.html