夏の光を浴びて輝く、束の間の出会いと別れ 菊地健雄監督作『ハローグッバイ』が切り取った一瞬

結城秀勇の『ハローグッバイ』評

 葵の家のゴミ箱いっぱいに詰まったとるに足らない万引きされた商品、花壇に埋められた持ち主さえも紛失に気づかない小さなものたち、日本中にどれだけあるかわからないこの「新しい町」。そんななんでもないようなものたちが、「ハロー」と「グッバイ」のあいだのほんの一瞬だけ、静かに輝いている。だから、ほんの数シーンしか登場しない悦子の娘(渡辺真起子)が母親の言葉に喉を詰まらせる場面に、涙を堪えることができない。だから、翌日からも同じように顔を合わせるにも関わらず、決してこの瞬間とは同じように出会うことができないふたりの少女の別れの場面に、涙を堪えることができない。劇中で決して誰からもその存在を口にされることないあの安っぽい鏡の光のように、ささやかでつまらないとるに足らない小さなものたちが、夏の光を浴びてほんの束の間、輝いている。

『ハローグッバイ』予告編

■結城秀勇
1981年生まれ。映画批評。雑誌「nobody」編集部。同誌24号から36号まで編集長。共編著に『映画空間400選』(LIXIL出版)。

■公開情報
『ハローグッバイ』
7月15日(土)、渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
出演:萩原みのり、久保田紗友、渡辺シュンスケ、渡辺真起子、小笠原海(超特急)、岡本夏美、松永ミチル、望月瑠菜、桐生コウジ、池田良、川瀬陽太、木野花、もたいまさこ
監督:菊地健雄
脚本:加藤綾子
主題曲・音楽:渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz)
製作・提供:Sony Music Artists Inc.
配給:アンプラグド
(c)2016 Sony Music Artists Inc.
公式サイト:hello-goodbye.jp

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