『コード・ブルー』は月9ドラマを救うか? 複合的な群像劇への期待
“月9”が苦しんでいる。近年、低視聴率を理由にした打ち切りの噂が何度となく報じられていたが、今年も『突然ですが、明日結婚します』が過去ワーストの平均視聴率6.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)に終わったほか、ラブストーリー路線を捨てて豪華キャストで挑んだ『貴族探偵』も平均視聴率8.8%に留まった。
しかし、放送30年を超えてなお月9ブランドは健在。ネガティブなニュースばかりではあるものの、今年最も多くYahoo!トップ記事に取り上げられているのは月9であり、その認知度や話題性は依然としてトップクラスと言える。
次作『コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命』(以下、『コード・ブルー』に略)の放送前に、「現在の月9には何が求められていて、どうあるべきか」を考えていきたい。
月9は新スターの発信地であるべき
2015年夏の『恋仲』以降、月9は徹底してラブストーリーにこだわっていた。その間、視聴率が低迷する一方、ネット配信数は右肩上がりで増え、しかも10代後半から20代前半の女性をガッチリつかんでいたことはあまり知られていない。若者のテレビ離れが叫ばれる今、それだけでも十分存在意義はあるのだ。
ただ、経営のために視聴率の獲得が欠かせない以上、リアルタイム視聴が見込めない若い女性ばかりをターゲットにしてはいられない。だからラブストーリーを離れて、事件モノの『貴族探偵』や医療モノの『コード・ブルー』が選ばれたのだが、今後もテレビ朝日のように固定ファンのいる手堅いジャンルだけを放送していくわけではないだろう。
低視聴率ばかりフィーチャーされる現状、まずは近年のネガティブなイメージを払拭することが最優先。その上で、新たなスター候補を発掘し、次世代の主演俳優を生み出していくことが求められている。過去を振り返ると、月9がスタートしたばかりの1990年前後は、三上博史、柳葉敏郎、吉田栄作、織田裕二らのスター俳優が次々に誕生した。今後も実績十分のトップ俳優ではなく、「これから登り詰めるであろう俳優をいかに見極めて抜てきしていくか」が鍵を握っている。やはり、月9は新たなスターの発信地であるべきではないか。
潜在的なニーズに応えるコンセプトを
新たなスターの発信地となるために重要なのは、俳優の人気ではなくコンセプトで勝負すること。TBSの『火曜ドラマ』(22時~)が、契約結婚と職業としての主婦にスポットをあてた『逃げる恥だが役に立つ』、罪悪感ゼロの不倫と共感度ゼロのヒロインで勝負した『あなたのことはそれほど』で成功を収めていることからも、コンセプトの大切さが分かるだろう。
その点、月9は1988年に当時珍しかった刑事コメディの『君の瞳をタイホする!』、徹底して内気で切ない片想いにこだわった『すてきな片想い』、美女と野獣を突き詰めた『101回目のプロポーズ』、三上博史が1人3役と女装に挑んだサイコサスペンス『あなただけ見えない』、知的障がい者のヒロインとその恋を描いた『ピュア』、潔く旬のイケメンに特化した『ビーチボーイズ』、貧富の格差に恋を絡めた『やまとなでしこ』など、ドラマ業界をリードするようなコンセプトの作品を手がけていた。
「月9=ラブストーリー」のイメージは強いかもしれないが、実際は1990年代序盤までで、中盤以降は激減。2000年代に入ると年に1本しか放送されないこともあり、その分『HERO』『アンティーク~西洋骨董洋菓子店~』『ランチの女王』『ビギナー』のような職業モノが増えていた。
2010年代に入ると再びラブストーリーが増えたが、わずか2年で再度の路線変更。アクションを絡めた探偵モノ『ラッキーセブン』、裏社会のトラブルを描いた『極悪がんぼ』、時代劇ファンタジーの『信長協奏曲』、池井戸潤原作の社会派ミステリー『ようこそ、わが家へ』などジャンルレスになっていた。
しかし、これらのコンセプトはどこか視聴率を逆算して作られた感が強く、視聴者の潜在的なニーズを発掘したとは言い難い。今後の月9は、高視聴率を獲得した作品から逆算したコンセプトではなく、視聴者の潜在的なニーズに応えるようなコンセプトを探すことが求められているのではないか。