『貴族探偵』のパロディ要素支える召使いたちの個性 作り込まれたキャラクターを読む
『貴族探偵』(フジテレビ系)は、基本的に1話完結の推理ドラマであり、ストーリーにはパターンがある。新米探偵である高徳愛香(武井咲)が訪れた場所で殺人事件が発生。そこに、貴族探偵(相葉雅紀)が登場。事件について、愛香が鼻形雷雨刑事(生瀬勝久)と共に推理をするも読みは外れる。彼女の推理を聞いた貴族探偵の召使いたちが、真犯人を突き止め事件は終幕、というものだ。
ドラマのラストに「このドラマはフィクションです。ありえないことがいっぱいのファンタジードラマですので、適度にツッコミながらお楽しみください」と出る注意書きが表すように、『貴族探偵』はパロディやバラエティ要素がふんだんに盛り込まれた作品だ。中でも、高度な笑いを視聴者に届けてくれるのが、貴族探偵と主従関係にある召使い、佐藤(滝藤賢一)、田中(中山美穂)、山本(松重豊)の3人である。
『貴族探偵』はファンタジードラマであるため、召使いたちの推理力、事件の再現度は笑ってしまうほどに、常軌を逸したレベルに達している。佐藤は貴族探偵のいる事件現場に山を越えて到着し、田中は事件を説明するため、お昼のニュース番組風のフリップを一瞬で出現させ、山本は完成度の高い女装を披露する。特に、“再現VTR”を軸とした3人の推理シーンは、ツッコミ要素だらけだ。
今週放送された第8話の事件は、大杉道雄(小市慢太郎)にそっくりな人物がもう一人いた、ということがポイントであった。制作された“再現VTR”では田中が大杉を、山本が事件の共犯者を演じた。その完成度の高さと、召し使い達の熱演に、毎回のようにニヤリとしてしまう。山本がナイフを自身の首に近づけ、掻っ切るジェスチャーをするシーンは、あまりの形相に思わず笑いがこみ上げる。『孤独のグルメ』(テレビ東京系)での、松重の落ち着いた演技とのギャップにユーモアが生まれているのもあるだろう。
召使いたちには、それぞれカラーがある。のんびり屋な性格で、前置きが長い山本。ポップカルチャーへの造詣が深く、私情を挟んでしまうことがある田中。貴族探偵のボディガードとして、俊敏な運動能力を誇るが、貴族探偵から手厳しい指導を受ける佐藤。召使いたちは、貴族探偵に次ぐほどの人気があり、佐藤演じる滝藤はそのままのキャラクターでTOYOTAのC-HRとのコラボCMにも登場している。CMでは、貴族探偵とたびたび繰り広げられている趣味人ならではの深いトーク力が再現されている。こうしてドラマの1キャラがスピンオフとして出演できるのは、一人ひとりのキャラクター設定が作り込まれている証拠とも言える。