『スプリット』はシャマラン監督の真骨頂だーー「脱出スリラー」のイメージを覆す快作

ダースレイダーの『スプリット』評

善悪を超えたところで描く、トラウマからの解放

 『ヴィジット』もそうですが、『スプリット』はなにかしらの心の傷を受けた人物が、それを乗り越える物語としても観ることができます。シャマラン監督にとって、それはひとつ大きなテーマなのかもしれません。『スプリット』の場合は、ケビンは心の傷を乗り越えることで超人的な力を手にいれることができるとされていて、その結果として世間的なヒーローになるわけではないのですが、トラウマからは解放されるわけで、ある種のカタルシスはある。

 それは善悪を超えたところで描かれていて、だからこそ『スプリット』は単純な勧善懲悪の物語ではなくなっています。たとえば『13日の金曜日』なら、最終的にこういう性格のヒロインが助かって、悪者がやっつけられるというパターンがあるけれど、『スプリット』にはそれがない。主人公の女の子も、最終的には助かっているものの、実はケビンと同様に深いトラウマを抱えていたわけで。子どもの頃の回想シーンも、父親からハンティングのコツでも教わっていたのかと思いきや、トラウマを思い出していて、だいぶ酷い目に遭っている。

 彼/彼女らがトラウマを克服していく物語として見ると、実は心に傷を持った人に寄り添った、ある意味では優しい物語なんですけれど、その結果が世間から見たときに必ずしもハッピーエンドではないのが、この映画を特別なものにしています。幼少期のトラウマをただ消し去るのではなく、それさえ肯定してしまうというか、強さの源のように描いているのが、新しいポイントだと思いました。

 しかも、そこから先の展開もあるから、驚くべきことです。これから観に行く方、全員にお願いしたいのですが、本作はエンドロールまで絶対に席を立たないでください。次回作の特報なんですけれど、本当にびっくりします(笑)。もう、最初に抱いていた「脱出スリラー」のイメージは、跡形もなく吹き飛んでしまうはずです。

 とにかく、最初から最後までいい意味で予想を裏切る作品で、冒頭の誘拐シーンで一気にシャマラン監督の土俵に乗せられて、そのままものすごいスピードで遥か彼方まで連れて行かれる作品です。シャマラン監督は今、ノリにノッていますね。

(構成=松田広宣)

■DARTHREIDER a.k.a. Rei Wordup
77年フランス、パリ生まれ。ロンドン育ち東大中退。Black Swan代表。マイカデリックでの活動を経て、日本のインディーズHIPHOP LABELブームの先駆けとなるDa.Me.Recordsを設立。自身の作品をはじめメテオ、KEN THE390,COMA-CHI,環ROY,TARO SOULなどの若き才能を輩出。ラッパーとしてだけでなく、HIPHOP MCとして多方面で活躍。DMCJAPAN,BAZOOKA!!!高校生RAP選手権、SUMMERBOMBなどのBIGEVENTに携わる。豊富なHIPHOP知識を元に監修したシンコー・ミュージックのHIPHOPDISCガイドはシリーズ中ベストの売り上げを記録している。
2009年クラブでMC中に脳梗塞で倒れるも奇跡の復活を遂げる。その際、合併症で左目を失明(一時期は右目も失明、のちに手術で回復)し、新たに眼帯の死に損ないMCとしての新しいキャラを手中にする。2014年から漢 a.k.a. GAMI率いる鎖GROUPに所属。レーベル運営、KING OF KINGSプロデュースを手掛ける。ヴォーカル、ドラム、ベースのバンド、THE BASSONSで新しいFUNK ROCKを提示し注目を集めている。

■公開情報
『スプリット』
全国公開中
監督・製作・脚本:M・ナイト・シャマラン
製作:ジェイソン・ブラムほか
出演:ジェームズ・マカヴォイ、アニヤ・テイラー=ジョイ、ベティ・バックリー、ジェシカ・スーラ、ヘイリー・ルー・リチャードソンほか
配給:東宝東和
2017年/アメリカ/英語/117分/原題:SPLIT/字幕翻訳:風間綾平
(c)2017 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.
公式サイト:http://split-movie.jp/

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