女同士のドロドロを描く『過激派オペラ』が、清々しい青春映画となった理由

『過激派オペラ』の清々しさ

 小路紘史監督による初長編映画『ケンとカズ』と、江本純子監督による初長編映画『過激派オペラ』が、ブルーレイ&DVDでキングレコードより5月3日に同時発売された。偶然にも同時期に公開された両作品は、前者は男同士のぶつかり合いを、後者は女同士のぶつかり合いを、ともに初監督作ならではの鋭利な感性で描き切っている。リアルサウンド映画部では、両作のブルーレイ&DVD化に寄せて連続レビューを掲載。後半では、映画・ドラマライターの須永貴子が『過激派オペラ』がドロドロした人間関係を描きながらも、瑞々しい青春映画となった理由を考察する。(編集部)

前編:『ケンとカズ』が突きつける、逃げ場のない世界のリアル 小路紘史監督のハングリーな才能

 劇団「毛皮族」の主宰・江本純子が初めての監督業に挑んだ作品が『過激派オペラ』。彼女が2006年に発表した小説『股間』(リトルモア刊)を映画化した本作の主人公は、女たらしの女性演出家・重信ナオコ(早織)。彼女が劇団「毛布教」を旗揚げするにあたって開催したオーディションにやってきたのが女優の岡高春(中村有沙)。2人の出会いと別れ、彼女たちに振り回される劇団員たちの葛藤や困惑、若さゆえの混沌としたエネルギーがほとばしる、清々しい青春映画に仕上がっている。

 清々しいとはいえ、登場人物の人間関係はドロドロだ。なんせ、重信ナオコがめちゃくちゃなのだ。オープニングは、町工場を稽古場として貸してくれる女性を相手に行う第一試合。稽古場の床の上を、2人でゴロゴロチュパチュパくんずほぐれつ。セックスと引き換えにこの工場をお得に借りていることは容易く想像がつく。その直後、ナオコはオーディションにやってきた春に一目惚れ。春を主演に抜擢し、稽古中にはえこひいき。女性は恋愛の対象ではないと拒否する春に「お願い! 一回だけやらせて!」と口説いて口説いて口説きまくる。この女、己の性欲を満たすためならプライドもへったくれもないのだ。

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 その後、ナオコは春を見事に籠絡し、2人は公私共に相思相愛のパートナーとなる。ところが、春が束縛すればするほどナオコの浮気の虫が騒ぎ出し……と、数多のカップルが繰り返してきた凡庸な与太話が展開する。それなのになぜ、この映画は非凡なのか? その理由はこのカップルが女性同士だからでも、女だけの劇団という特殊な集団を描いているからでも、インパクトのある劇中劇や大胆な性描写が織り込まれているからでもなく、主人公の重信ナオコという人間のキャラクター造形にある。彼女は目の前に欲しいものがあれば脇目も振らずに突進し、夢中で遊び倒し、飽きたらおもちゃのように捨ててしまう。人の気持ちなんて考えないし、率先して公私混同し、自分の欲望のために誰かが傷ついていることなんて気づきもしない。カリスマである彼女の周りには人が集まってくるが、ついていけないと去っていく者もたくさんいる。それをナオコがどう思っているのかはわからない。なぜなら、江本監督は、彼女に本音を語らせる機会を与えないからだ。

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 ナオコ自身、自分が劇団を主宰する理由をわかっていないのではないか。演劇をやりたいからなのか、有名になりたいからなのか、女性にモテたいからなのか、はたまた仲間がほしいからなのか。彼女と劇団員たちを観ていると、10~20代の頃、教室やサークルなど、なんらかの集団にいたときの感覚が蘇る。表向きには涼しい顔をして集団のなかで自分の役柄を全うしつつ、パンツの中は欲望でぐっちゃぐちゃ。凡人はパンツの中身を隠しているが、ナオコは常にオープンにしながら生きている。だから彼女は竜巻のように周りの人を巻き込み、混乱を生み出していく。

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