『はらはらなのか。』は映画にしかできない“嘘”をつくーー酒井麻衣監督のアイデア溢れる演出
そこに酒井麻衣のアイデア溢れる演出が加わり、さらに大きな化学反応が生まれる。前述したヒロインの一人二役や、夢の中で始まるオープニングアクトから、随所で現れるミュージカルシーン。またしても映画にしかつけない“嘘”を巧みに操り、映画を観ているという気分を高めてくれる。さらに“第四の壁”を破って語りかけたり、母親の幻影を見つけたりと、これは前作でも見られた方法論だ。
また、ミスiD出身の吉田凛音の圧倒的なパフォーマンスからも目が離せない。前作で中嶋春陽がヒロインを凌駕する存在感を見せ付けたように、今作でも“委員長”がヒロインと対照的かつ影響を与える存在として輝くわけだ。彼女の登場シーンのミュージカルパート、そして終盤の歌唱シーンは実に見事。音楽が見せ場となるだけあって、最近『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)で注目を集めるようになったチャラン・ポ・ランタンの楽曲も、おとぎ話が提供した楽曲も、映画の世界とマッチし、しっかりと耳に残る。
前述したように、今のインディーズ映画の流れをフランスのヌーヴェルヴァーグに置き換えてみるなら、言葉を操り大胆なショットを重ねて鋭利な映画を作り出す山戸結希はジャン=リュック・ゴダールになるだろう。一方で、自然で滑らかな台詞回しで自由な物語を構築し、そこに音楽や演劇といった軽やかな芸術を掛け合わせ、ファンタジーの世界に落とし込む酒井麻衣は、ジャック・リヴェットといったところだろうか。
■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。
■公開情報
『はらはらなのか。』
新宿武蔵野館ほか全国公開中
出演:原菜乃華、吉田凛音、粟島瑞丸、チャラン・ポ・ランタンと愉快なカンカンバルカン、micci the mistake、上野優華、広瀬斗史輝、水橋研二、松本まりか、川瀬陽太、松井玲奈
監督・脚本:酒井麻衣
音楽・主題歌:チャラン・ポ・ランタン「憧れになりたくて」(avex trax)
原案・脚本協力:粟島瑞丸「まっ透明なAsoべんきょ~」
企画:直井卓俊
プロデューサー:和田有啓、戸山剛
制作:マウンテンゲートプロダクション
音楽・主題歌:チャラン・ポ・ランタン
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
製作幹事:DLE
製作:「はらはらなのか。」製作委員会
(c)2017「はらはらなのか。」製作委員会
公式サイト:http://haraharananoka.com