J・G・レヴィット演じる“スノーデン”の造形は正解だったのか? 結城秀勇の『スノーデン』評

結城秀勇の『スノーデン』評

 だから、肝心の情報を盗み出すシーンの下手なスパイ・アクションじみた演出がどうも納得いかない。ルービックキューブを小道具に、いきなりスマートなプロフェッショナル風に仕事をされても、お前、そんなやつだったっけか、という気がする。悪夢のドタバタ喜劇のような巨大権力に立ち向かうのは、不器用で無様だがどこまでも真面目なナード青年。それでよかったんじゃないのか。観客が応援したくなるのは、二段ベッドから飛び降りて両足を骨折し、恋人が出て行ったからという理由で諜報機関を辞め、やりたい仕事を見つけたと言ってポールダンス教室(!)を開くような恋人を持つ、情けなくもどこか愛らしい青年。それでよかったんじゃないのか。

 ドキュメンタリー『シチズンフォー スノーデンの暴露』でエドワード・スノーデンは、生い立ちを語るよう質問する記者に対してこう警告する。

「マスコミはキャラクターを大きく取り上げ過ぎる」

 その警告に反して、“スノーデン”というキャラクターのみを賭け金とするこのような映画を作るのだから、もっと徹底すべきだった。ましてラストシーンのクイーンズ大学でのビデオチャット講義の途中で、“本物のスノーデン”を登場させるなどということは、この映画の本質ともスノーデンの意図ともかけ離れた、蛇足に過ぎないだろう。

■結城秀勇
1981年生まれ。映画批評。雑誌「nobody」編集部。同誌24号から36号まで編集長。共編著に『映画空間400選』(LIXIL出版)。

■公開情報
『スノーデン』
全国順次公開中
監督:オリバー・ストーン
脚本:オリバー・ストーン、キーラン・フィッツジェラルド
原作:「スノーデンファイル 地球上で最も追われている男の真実」著 ルーク・ハーディング(日経BP社)
出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット、シャイリーン・ウッドリー、メリッサ・レオ、ザカリー・クイント、トム・ウィルキンソン、リス・エヴァンス、ニコラス・ケイジ
2016年/アメリカ・ドイツ・フランス/原題:SNOWDEN
配給:ショウゲート
(c)2016 SACHA, INC. ALL RIGHTS RESERVED.
公式サイト:www.snowden-movie.jp

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる