小松菜奈に観客が恋に落ちる理由 女優の魅力を増幅させる『ぼく明日』三木孝浩監督の技術

小松菜奈、観客が恋に落ちるヒロインに

 110分の映画なのに、タイトルが登場するのが開始40分ほどのところ。つまり物語の前半の楽しい一時は、ほんのプロローグにすぎないという残酷さをも垣間見せる。そのタイトル直前の駅でのキスシーン、もはやこれを最高に美しく見せるために、『ホットロード』以来2本目となるシネスコ画面を選択したに違いない。

 そして何と言っても小松菜奈だ。小松菜奈が、あまりにも魅力的なのである。『渇き。』からすべての作品を観てきているが、こんなにも輝いている女優だっただろうか。『バクマン。』の去り際のショットと、『黒崎くんの言いなりになんてならない』のクライマックスでの走り方に違和感を感じていた筆者としては、本作の彼女の一挙手一投足に虜になるなんて、いや、予告の時点で薄々感じていたことか。

 これもまた三木孝浩の作品の特徴のひとつである。魅力的な女優を、より魅力的に映し出す。往年の日本映画では例えば吉村公三郎とか、もう少し近年でいえば大林宣彦のように、それに長けた監督は必ずと言っていいほど存在していた。最近ではどうも、女優持ち前の魅力に甘えてしまって、それを増幅させる技量がどうにも足りていないと感じる。その中で三木孝浩は、現代日本映画界では唯一、観客が恋に落ちるヒロインを作り上げる技術を持っている監督だろう。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』
全国公開中
監督:三木孝浩 
出演:福士蒼汰、小松菜奈、山田裕貴、清原果耶、東出昌大/大鷹明良、宮崎美子
原作:七月隆文「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」(宝島社)
脚本:吉田智子 
音楽:松谷卓
配給:東宝
(c)2016「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」製作委員会
公式サイト:http://www.bokuasu-movie.com/

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