アイドルへの“ガチ恋”は、なぜかくも切ない? 栗原裕一郎と姫乃たま、映画『堕ちる』を語る
耕平さんはやっかいヲタ
栗原:ネタバレになっちゃうので書けないんだけど、あのオチはどうでした?
姫乃:あれは地下アイドルファンの地獄ですよね。
栗原:安直に落としたな、と実は思ってしまって。柳下毅一郎さんも「これでいいの?」って言ってましたよね。前回のイベントでゲストだったジェーン・スーさんもオチに対して懐疑的だったって話がトークショーで出てました。
姫乃:内部から見ると相当あるあるだしリアルなんですけどね。実際あんな感じです。
栗原:葛藤があまりにないじゃない。物語として見た場合その展開はどうなんだって気がしたんだけど、ああいう短絡的なほうがむしろリアル?
姫乃:そうですね。実際にああいうことはありますけど、地下アイドル文化って理解しがたいものだと思うので、本当にリアルなものがリアルだと思ってもらえるわけではないかもしれないですね。
栗原:ああー。耕平さんはあれから炎上するよね、確実に(笑)。
姫乃:正直なところ最悪ですよね。耕平さんは面倒くさいアイドルファンになってしまった……。もともと衣装を作って贈ること自体、ぎりぎりですよね。気持ちは嬉しいけど、それが行き過ぎると危ない。特に耕平さん口下手だから本人から何も希望を聞かずに和服テイストの衣装を作ってますよね。衣装自体は可愛かったですけど、めめたんのイメージもあるから舞台で着用できるかは保証できないわけで、それで怒られたらどうしようっていう怖さはありますね。
栗原:そこはフィクションとして、というより制作上の縛りでしょうね。『堕ちる』は群馬県桐生市の「きりゅう映画祭」への出品作だから、桐生の名産である織物を絡ませたかったんでしょう。制作費は70万円だって監督が話してましたね。桐生市から支給された奨励金が70万円だったって。
姫乃:今日は衣装の展示もありましたけど、織物きれいでしたね。いや、衣装は可愛かったですよ!(笑)
栗原:普段の服やアクセサリーをあげたがるファンも多いと思うんだけど、趣味がもろに出るところですしね。
姫乃:それもありますけど、プレゼントのアクセサリーって着けると問題になったりするんですよね。
栗原:でもファンから贈られたものかどうかなんて、他のファンにはわからないでしょ。
姫乃:アイドルさんのキャラクターによってはアクセサリー着けてるだけで、推測がとびかって問題になったりしますね……。
栗原:さっき「現場じゃなくて、実家の床屋で知り合ったというのもちょっと面倒くさい」って言ってたじゃない。アイドルのめめたんを知った後、床屋へ行った耕平さんが、窓越しにめめたんに挨拶されてバッと逃げ出しちゃうシーン、あそこは芸が細かかったですね。
姫乃:めめたんのファンになったから、プライベートの彼女がいる床屋さんへは行けなくなったという。可愛いですよね。その後もズカズカ通って来て、「今日もシャンプーしてくれるかな!?」とか言われたら嫌ですけど、逃げちゃうのは可愛いですね。アイドルファンってそういう線引きをして来ますよね。耕平さんには幸せになってほしいな。
めめたんの地下アイドルとしてのリアルさ
栗原:めめたんはどうでした?
姫乃:ご本人も実際にアイドルをされている方なので、アイドルらしくてよかったです。これまた制作の都合だとは思うんですけど、オリジナル曲が1曲しかないっていうのがリアルな地下アイドルっぽくてよかったですね(笑)。CDジャケットの絶妙なダサさや、ポスター写真の光量が少ない感じとかもすごい良かったです。めめたん可愛かったー。
栗原:めめたんの持ち歌の主題歌「wonderland」は、監督が友人の作曲家・前口渉さんに頼んで作ってもらったオリジナルだそうです。映画の音楽も前口さんですね。めめたん役の錦織めぐみさんは、Luce Twinkle Wink☆(ルーチェ・トゥインクル・ウィンク)というグループのメンバーで……。
姫乃:栗原さん、めめたんはご存知でしたか?
栗原:昨日調べましたよ(笑)。
姫乃:さすが(笑)。
栗原:で、MVをいくつか見たら、ルーチェというグループのイメージが、もうまんまめめたんで。これはメジャーデビューシングルのMVなんだけど……。
姫乃:すごい、めめたんだ。
栗原:「めめたん」も、錦織めぐみさんが実際にそう呼ばれている愛称だそうです。村山監督は乃木坂46やNMB48のMVなどを撮っていて、ルーチェのMVも手掛けたことがあり、そのイメージから錦織さんを『堕ちる』に起用したという経緯のようです。ルーチェのこの曲も、本当にアイドルアイドルしていて、なにげにダンススキルも高くて。
姫乃:わはー、可愛いですね。思いっきりアイドルだ。
栗原:愛乙女☆DOLLやDoll☆Elementsの後輩になるみたい。
姫乃:めめたん可愛い……。
栗原:めめたんが一番可愛いく見えてしまう。
姫乃:あ、それはもう栗原さんアイドルファン思考に入りかけてます! 昔、濱野智史さんも言ってたんですけど、アイドルファンって基本的に顔見知りを贔屓する感覚でハマっていくんですよ。今日、映画を見たことで、グループの中でめめたんだけを知っているので、それで一番可愛く見えてしまうという。もちろんめめたんは可愛いんですけど。あれ、私もヤバイのか……?
栗原:映画を見て刷り込まれちゃったので自然と目が行くし、良いところを積極的に見つけにいくようにもなってるんだよね。中高校生時代とか、ちょっと可愛いなって気になった女の子を見ているうちにどんどん可愛く見えてくるというのがよくあるんだけど、ああいう感覚に近いですね。
姫乃:そういう感じですよね……! だから耕平さんも床屋じゃなくて、いきなりライブハウスでめめたんを見てたら好きにならなかったかもしれません。
栗原:ああ。村山和也監督自身は実はそれほどアイドルに詳しいとかハマっているというわけじゃないそうなんだけど、そのへんのツボというか機微の押さえ方が絶妙ですよね。1982年生まれだからまだ若い。34歳ですか。
姫乃:すごく勘のいい人だと思いました。終演後に、「何回くらいアイドルライブ行かれたんですか?」って聞いたんですけど、仕事で行ったAKB48の公演と地下アイドル何組か、本当に数えるくらいしか行っていないみたいなんですよ。それなのに映画はすごいリアル。めめたんが本当にアイドル活動されているのも大きいとは思うんですけど。普段はPVの監督をされているということで、序盤は全体的に音楽が入ってたじゃないですか。それが長編のPVみたいな感じで良かったです。トークで柳下毅一郎さんもおっしゃってましたけど、音楽がなかったら実はけっこうきつい映像ですよね……。
栗原:ポスターを貼る音がガサガサ鳴ってるだけだと生々しくて、それこそドルヲタを追ったノンフィクション番組みたいになってしまうわけか。
姫乃:怖い。