「長瀬智也くんを面白く演出したかった」 宮藤官九郎監督『TOO YOUNG TO DIE!』インタビュー

宮藤官九郎インタビュー

「日本人が観ても恥ずかしくならないことを意識した」

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ーー動物もそうですけど、登場人物がかなり多いですよね。豪華な役者さんたちがカメオ的に出演されているのも見どころのひとつだと思います。特に中村獅童さんの役柄は衝撃的でした。

宮藤:去年、獅童さんが出演した歌舞伎の脚本を自分が書いたりしたので、断りづらいだろうなと思ってオファーしました(笑)。この役を誰がやるのかを決めてしまったらOKというか、逆にこの役が誰にも決まらなかったら、このシーンはカットしろって言われるだろうなと思っていたので、獅童さんが受けてくれて本当によかったです(笑)。この映画は基本的にCGを使っていないんですけど、獅童さんのシーンはCGです。さすがにアレは無理でしたね(笑)。

ーーでしょうね(笑)。ほかにも音楽界を中心に、様々なフィールドで活躍されている方々が出演されています。宮藤監督の中で最も印象に残っているのはどなたですか?

宮藤:木村(充揮)さんですね。向井(秀徳)さんが仕上げてきた曲がゴスペルだったので、最初はゴスペルのグループにお願いして、黒人の方たちに唄ってもらったんですよ。でも、地獄を讃える話なので、皆さんやりづらかったみたいでかなり難航したんですよね。そしたら助監督さんが「木村さんに唄ってもらったらどうでしょう?」って言ってきて、「それものすごくいいですね!」という感じで、木村さんにお願いすることになったんです。唄ってもらうんだったらせっかくだし現場に来てもらおうってなって、現場に来てもらうんだったらせっかくだしちょっと出てもらおうってなって……という感じで(笑)。みうら(じゅん)さんもそうですけど、シャレが通じるというか、そういう人たちに出てもらえたのは本当によかったですね。

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ーーあのゴスペルだったりボサノバだったりっていう音楽は、向井さんにお任せで作ってもらったんですか?

宮藤:今回、KYONOさんに作ってもらった主題歌の「TOO YOUNG TO DIE!」と、(益田)トッシュさんにお願いしたデビルハラスメントの曲以外は、全部向井さんにお願いしているんです。これは自分の勝手な考えかもしれないですけど、向井さんとはこれまで4本一緒にやってきて、自分が映画監督して経験を積んでいるのと同時に、向井さんは劇伴という分野で経験を積んできていて、すごく引き出しが増えているんですよね。だから今回も僕は普通にオーダーしたんですけど「ボサノバになっちゃいました」とか「ゴスペルにしてみました」とか、こっちの想像を軽く超えてくるというか、向井さん自ら新たな引き出しを開拓しているんですよね。今回はかなりバラエティに富んだ内容になっていると思います。向井さんもやっぱり基本的に映画好きなので、そのセンスを100%信頼してお任せできましたね。

ーー事前に情報がなければ向井さんの曲だとはわからなかったかもしれません。

宮藤:僕も向井さんがあんな王道のバラードを作ってくれて、おまけにギターソロまで弾いてくれるとは思ってもいませんでした。撮った映画をなるべく多くの人に観てもらいたいと僕が思うのと同じように、向井さんも音楽の引き出しを増やしたいっていう意識があるんじゃないかなって思いました。

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ーー主題歌の歌詞は宮藤さんご自身が手がけられていますが、あの歌詞はどのように生まれたんですか?

宮藤:シナリオを書きながら、キラーKが自己紹介をするとしたらこんな感じかな……と想像しながらですね。あまり深くは考えていなかったんですけど、実はこの歌の中にこの映画のテーマが全部入っているんですよ。だから今振り返ってみると、映画の内容は歌詞を書きながらその時に決めたのかなって。「俺の右腕はジミヘンの左腕」「俺の左腕はカート・コバーンの右腕」。この2行はすぐに思いついたんです。そしたら、他のパーツも誰かのがいいな……と思って、じゃあ下半身はマイケル・ジャクソンかなとか、日本人がいないのもな……と思って、歌は清志郎さんかなっていうところまできた時に、「みんなとっくに地獄に堕ちた」「カッコ良すぎて地獄に落ちた」っていう歌詞を書いたんですよね。その時点でこの映画はこういう内容になるって決まったのかもしれません。

ーーまさに“ロック”という感じですよね。

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宮藤:ロックの映画といえば、それこそ『スクール・オブ・ロック』とか、もう少し遡れば、『ファントム・オブ・パラダイス』や『ロッキー・ホラー・ショー』とかあるじゃないですか。でも、多くの日本人にとっては、自分たちから生まれた文化じゃないからどうしても気恥ずかしいというか、受け止めるのに時間がかかってしまう気がするんですよね。それが、舞台を“地獄”にした理由のひとつかもしれません。地獄を知らない人はいないし、地獄を舞台にした邦画もありますけど、地獄とロックを結びつけた映画はたぶん日本にはないのかなって。海外だと『ビルとテッドの地獄旅行』とかありますし、音楽だと地獄とロックの組み合わせは、かなり親和性が高い。でも日本で“地獄とロック”をテーマに映画を作ろうとすると、やっぱり難しいところがあるんですよね。少しリアルな路線のものじゃないと、皆さんあまり観てくれない気がしますし(笑)。だから自分はこの映画で、日本人が観ても恥ずかしくないロックミュージカルにしようということを意識しましたね。今自分ができる形としては、ロック映画としても、地獄の映画としても、日本人が観て照れないで楽しめる映画になったと思います。

(取材・文=宮川翔)

■公開情報
『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』
6月25日(土)全国ロードショー
監督・脚本:宮藤官九郎
出演:長瀬智也、神木隆之介、尾野真千子、森川葵、桐谷健太、清野菜名、古舘寛治、皆川猿時、シシド・カフカ、清、古田新太、宮沢りえ
製作:アスミック・エース 東宝 ジェイ・ストーム パルコ アミューズ 大人計画 KDDI GYAO
制作プロダクション:アスミック・エース
配給:東宝=アスミック・エース
(c)2016 Asmik Ace, Inc. / TOHO CO., LTD. / J Storm Inc. / PARCO CO., LTD. / AMUSE INC. / Otonakeikaku Inc. / KDDI CORPORATION / GYAO Corporation
公式サイト:TooYoungToDie.jp

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