柳楽優弥、完全復活の背景ーー元・天才子役はいかにして挫折から這い上がったか

柳楽優弥の役者人生を振り返る

 映画『ディストラクション・ベイビーズ』で「世代交代です!」と高らかに宣言をした柳楽優弥。同年代の役者にはない覚悟とギラつきを感じる柳楽の演技は、現在放送中のドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ)でもその圧倒的な存在感を遺憾なく発揮し、視聴者の目を釘付けにしている。かつて世界が認めた天才子役が、紆余曲折を経て、今やドラマや映画に必要不可欠な俳優として大復活を遂げた。その変化とはいったい何なのか、本稿で検証してみたいと思う。

天才子役の栄光と挫折

 柳楽優弥を語る上で欠かす事のできない作品と言えば、2004年に公開された是枝裕和監督作『誰も知らない』。母親に半ば捨てられた4人の子供たちが、必至に生き抜こうとする過酷な運命を、ドキュメントタッチで描いた作品だ。当時はそのセンセーショナルな内容以上に、長男役の柳楽が、14歳にして第57回カンヌ国際映画祭で最優秀主演男優賞を史上最年少で受賞したことに注目が集まった。同作のオーディションでは、是枝裕和監督に「目に力がある」という理由で選ばれたという。必死に生きようとする力強さを持ちながらもどこか悲しげで、何かを見透かしたようなその目に世界中が魅了された。

   しかし、この華々しいデビューによって、柳楽は重い十字架を背負う事になる。この作品は特殊で、まるで子供たちのドキュメンタリーを撮るように、1年という長い期間を費やし撮影された。もちろん柳楽は素晴らしい演技をしているが、それ以上に是枝監督の演出によるところも大きかったはずだ。その後は「カンヌを受賞した子役」として、とてつもないプレッシャーの中、数多くの作品で主役を務めるが、是枝監督作品とは勝手も違ったはずだ。周りにも遠慮があり、年齢的なことを考えてもテングになるのは仕方なく、本当の意味で演技としてのキャリアを積むのは難しかったと予想される。「だからもう、天狗(てんぐ)なんてもんじゃない。わがままで生意気でした。ガキのくせして『やる意味がない』とか言って偉そうに仕事を断ったりして。それによって周りに迷惑をかけていることにも全く気づいていませんでした」と述べているように、これについては本人も認めている。(引用元:vol.69 俳優 柳楽優弥 挫折で知った学びの大切さ)目力とミステリアスなムードは他の役者には出せない魅力があるのは間違いないが、デビュー作で華々しくデビューし、行き詰まってしまうのは子役スターによくある話だ。

どん底生活からの復活

 そして次第に仕事が少なくなり表舞台からフェードアウトしていく柳楽。麻薬に溺れ悲劇的な死を遂げたリバー・フェニックスのようにそのまま自滅する不安もあったが、人間不信になっていた柳楽が潜伏期間中にバイトを経験し、19歳の時に結婚した妻の豊田エリーの支えがあったおかげで演技の魅力を再確認すると共に表舞台に帰ってくる。普通の男の子として成長する時間も、演技を勉強する時間もなかった10代の柳楽が、この潜伏期間に人間としても役者としても見つめ直し、1日8食の生活から20キロの減量。2011年にNHK BSプレミアムで放送された「旅のチカラ 21歳の決心 ハリウッド俳優修業~柳楽優弥・アメリカ」というドキュメンタリー番組では、まともな演技の勉強をしてこなかった柳楽がそのコンプレックスを赤裸々に告白している。ゼロから演劇を学び、2012年には舞台『海辺のカフカ』で蜷川幸雄の指導を受け、2013年には映画『許されざる者』で、渡辺謙、佐藤浩市、柄本明など名役者たちの教えを毎晩受けた。2013年に柳楽がゲスト出演した「A-Studio」で豊田エリーが鶴瓶に明かしたように、RPGで経験値を上げていくかの如く、演技の経験値をどんどん上げていったのだ。

『アオイホノオ』との出逢い。そして現在

 以降、出演作を重ね、復活を成し遂げた柳楽を役者として完全覚醒させたのが、2014年のドラマ『アオイホノオ』(テレビ東京)。監督・脚本を務めた福田雄一は『勇者ヨシヒコ』シリーズや映画『HK 変態仮面』などを手がけ、山田孝之や鈴木亮平を覚醒させた奇才だ。漫画家を目指す大学生役を演じた同作は、柳楽にとって初のコメディ作品となる。分かりやすいオーバーリアクションや絶叫や変顔など、ギャグ漫画に出てきそうな熱血漢をさせることで、今まで繊細で内気な役ばかりやっていた柳楽の殻をぶち破った。同作が『ゆとりですがなにか』の演技にも影響を与えたのは間違いない。「最終回の放送が終わった後、福田雄一監督に『アオイホノオをきかっけにいろいろなことが変わった。自分の中で一歩踏み出せたような気がします』とメールしたんですけど、まさにそういう気持ちです」と心境の変化を語ってもいる。(引用元:柳楽優弥、デビュー10周年「自分の中で一歩踏み出せた」)ラストで、柳楽演じる焔モユルが漫画家デビューしたことに対しライバルの庵野 ヒデアキ(安田顕)が言った「思っていたほどうれしくないだろう。なぜだかわかるか? すぐに認められたらすぐにプロとしての責任感とそれに対する不安が襲ってくるからさ」という台詞がカンヌの時の柳楽を表しているようにも思える。そういう意味でも同作は、演技だけでなく過去のトラウマからも解放された作品だったと言え、以降、柳楽の演技には迷いがなく、感情を表に出すことのできる俳優へと進化していった。

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