成馬零一の直球ドラマ評論『ゆとりですがなにか』
『ゆとりですがなにか』第五話で描かれた、仕事と恋愛の葛藤 それぞれの“曖昧な関係”の行方は?
山路と悦子の関係は、恋愛と師弟の関係が入り混じっている。悦子が「(抱きしめても)いいですよ」と、手を広げた時に、山路が握手をして頭を撫でることしかできなかったのは、その意味で仕方がないことだろう。もしも茜が言うように、セックスした後で説教していたら、すべてが台無しだ。大悟の母親と山路が急接近している中、二人の関係はどうなるのか?
一方、山岸はいつの間にか後輩たちを指導するようになっていた。自分のことを棚にあげて、高圧的に説教する山岸に対して、本社ですれ違った坂間が「何、パワハラ中?」と聞くのが面白い。今までの態度があまりにもいい加減だったため、「先輩の気持ちすげーわかります。ゆとりモンスター、マジで何考えてるか全然わかんねぇし」と言われても全然説得力がない。
曖昧ゆえに心地がいい関係に対応するのが、恋人と仕事仲間。そして家族の関係だろう。中でも重低音として響いてくるのは坂間やまりぶの家族描写だ。何でも屋として坂間と山路の相談相手となっている麻生巌(吉田鋼太郎)だが、不倫で家族を捨ててしまい、息子のまりぶとは、うまくいっていない。そして、まりぶ自身も家族がいながら、ゆとりと付き合おうとしている。
自分の不倫について「あんたの血だと思うんだけど」とまりぶは言う。家庭環境を説明してまりぶのことを謝る麻生に対して「関係ねぇ!」と、坂間は怒る。あんたらの家族の問題で妹を巻き込むな。という意味で坂間は怒っているのだが、自分の親が不倫をしたからって、不倫をしていい理由にはならないと言っているように聞こえる。ゆとり教育等、先天的な環境を理由にして物事をわかりやすく説明してしまうことに対して距離をとろうとするこのドラマのスタンスが良く現れている場面だと言えよう。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■番組情報
日本テレビ新日曜ドラマ『ゆとりですがなにか』
4月17日(日)22:30スタート
出演:岡田将生 松坂桃李 柳楽優弥 安藤サクラ 吉田鋼太郎
脚本:宮藤官九郎
「ゆとりですがなにか」公式サイト