『ブレイキング・バッド』から『ベター・コール・ソウル』へ 米ドラマ最高傑作の“進化”を追う
制作環境の違いは、ドラマの内容にも明確な影響を及ぼしている。一見して分かるのは、とにかくドラマの展開が遅いこと。第2シーズンに入ってからなんて、一言でまとめれば「名門事務所に望外の入所を果たしたジミーだが、なんか今いちなじめない……」というだけの描写が5話くらい延々と続く。1話ごとの完結性も薄い。遅いのはドラマの展開だけじゃなく、もう1人の主要人物であるマイクはもうおじいちゃんなので動き自体が遅い。
こう書くとなんだか退屈そうに思えるかもしれないが、これが見始めると止まらないのだ。ジミーがなぜ問題行動ばっかり取ってしまうのか、ジミーの恋人キムは優秀な弁護士なのになぜジミーなんかと付き合うのか、もう1人の主要人物であるマイクの行動倫理は何なのか。これだけ急がず、焦らず、じっくりと描かれるからこそ、それぞれの登場人物の内面のドラマが深く伝わってくる。そして、表面的には大したことが起こっていないように見えながら、気がつけばより深刻な方向に事態が進展していき、視聴者を休ませてくれない。
『ベター・コール・ソウル』は、新しいフォーマットを活用することで『ブレイキング・バッド』の世界よりさらに先に進むことを目指し、成功しているドラマなのだ。
視聴者はこのドラマの結末を知っている。今はジミーと親密な関係にある恋人キムや実兄チャックが、6年後、ソウルの身辺にいないことを知っている。疫病神ウォルターと出会い、共にどん底まで落ちていくことを知っている。分かっている結末に向かって、『ベター・コール・ソウル』はゆっくりと、しかし着実にドラマの歩を進めている。
■小杉俊介
弁護士、ライター。音楽雑誌の編集、出版営業を経て弁護士に。
■作品情報
『ベター・コール・ソウル』
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