少女が狼女に“変身”する意味とはーー『獣は月夜に夢を見る』が紡ぐ上質なノルディック・ノワール

『獣は月夜に〜』が描く少女の性と死

 本作の“狼人間”はどうだろう。“狼女”と化す宿命を背負った主人公マリー。彼女が働きはじめる水産工場には閉塞感が充満し、人間関係は極めて冷ややかだ。その重々しい空気は町全体に蔓延しており、もしかすると国中、はては世界中にまで到達しているのではないかと思わせられる。そんな状況下で、マリーは同業者からのイジメを受け、家族も町人たちから差別を受けている。これらの描写の陰鬱さはさすがの北欧映画なのだが、ここにはキリスト教的戒律が今なお根強くある社会への不信が根底にあると言えよう。また、同じく“狼女”であるマリーの母親は、車椅子に乗ったまま自ら動くことなく言葉も失った状態である。その悲痛な姿には、“狼人間”=病人のイメージが重なる。これらの設定が、先の“狼男”伝承を強く意識しているのは確実だろう。

 伝統的な寓話性と、閉鎖社会を生き抜こうとする少女の性と死にまつわる悲劇を紡ぎ合わせた本作は、単にノスタルジックな美しさに堕することなく、現代的な切実さをともなう血の通った作品となっている。

『獣は月夜に夢を見る』予告映像

■嶋田 一
主に映画ライター。87年生まれ。女が黒豹に変身する『キャット・ピープル』リメイク版が、幼少期の恐怖映画体験ベスト1。

■公開情報
『獣は月夜に夢を見る』
4月16日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
監督:ヨナス・アレクサンダー・アーンビー
出演:ソニア・ズー、ラース・ミケルセン、ソニア・リクター
(C) 2014 Alphaville Pictures Copenhagen ApS

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる