『いつ恋』第七話で“花”と“レシート”が意味したものは? 映像の向こう側を読み解く

 前回、空に輝く「星」が好きな井吹朝陽(西島隆弘)と、地面に咲く「花」が好きな曽田練(高良健吾)という対比で、二人の優しさの違いについて言及したのだが、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(以下『いつ恋』)第七話では「花」が象徴的なアイテムとして登場する。参考:『いつ恋』が浮き彫りにする、男たちの弱さーー5年の月日は練たちをどう変えた?

 まずはタイトルバック。本作では毎回、シンプルな書体で書かれたタイトルと話数が映像に被さる形で登場するのだが、今回は静恵おばあちゃん(八千草薫)の家にある花壇の萎れた花のアップといっしょに登場するという象徴的な見せ方となっている。花壇はかつて練が世話していたものだ。そのためか、萎れた花は祖父(田中泯)の死によって心が折れてしまった練の姿と重なって見える。

 花をめぐるやりとりで印象的なシーンがもう一つある。音のアパートを訪ねた朝陽はジュースの瓶を花瓶に使っていたのを見て、新しい花瓶を買ってきて花を取り変えようとする。「結婚すれば今みたいにきつい仕事する必要なくなるし、いい部屋にだって住まわせてあげられる」と言う朝陽。しかし、音は、今の仕事をやめたくないし、この部屋も出たくないと断る。人から見てどんなに理不尽できつい仕事に見えても、どんなに貧しい部屋に見えても、それは音が自分の力で手に入れた自由にできるものだからだ。音の気持ちを理解した朝陽は花瓶を取り換えて、その場を立ち去る。

 この花と花瓶をめぐるやりとりは、表面上の会話をなぞるならば、花=音、音のアパート=花瓶とみることもできる。しかし、音から、練に会っていいのか? と聞かれたことに対する朝陽の苛立ちを考えると、一人暮らしの生活を手に入れるきっかけを作った練=古い花瓶、朝陽=買ってきた新しい花瓶と見立てれば恋の三角関係を描いているとも言えよう。それだけに音が二つの花瓶に花を分けるシーンは優しさゆえに残酷なものを感じさせる。

 朝陽の変化をじわじわと描いていく本作だが、その背景に、会社を整理して社員をリストラするという汚れ仕事を父親から命じられたことに対する葛藤があることを忘れてはならない。朝陽は音との幸せにために「必死に仕事している」と言うが、実際は逆で、理不尽な仕事を任されたが、父に逆らうことができないために受け入れざる負えない精神的重圧から逃れるために音へのアプローチが加速しているのではないだろうか。

 第七話冒頭の音への強引なプロポーズの前には、父の命令で実の兄にリストラを告げており、花瓶のくだりの前にも、社員をリストラするための長い会議が開かれている。

 朝陽がリストラを告げる場面は本編では描かれないのだが、本作ではあえて具体的な描写をせずに台詞で語られるシーンが多い。震災の場面がその筆頭だが、おそらく作り手は視聴者に映像の向こう側にあるものを想像してほしいのだろう。

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