笑えないコメディー『マネー・ショート』が浮き彫りにする、人間社会の悲喜劇

『マネー・ショート』が描く社会の悲喜劇

 この作品が最も強く強調するのは、先見性のある投資家達の「華麗なる大逆転」劇というよりは、経済界の愚かしい喜劇性と、それに振り回される社会全体の悲劇性である。経済でつながった各業界は、利害が一致した共犯関係を結び、「大いなる幻影」を作り出していた。そして、姿を現している本物の危機にすら、それぞれが見ない振りを続けることで、それが健全だということにしていたのである。

 だが、これを愚かしいと笑って見ている現在の我々は、当時の幻影に支配された異常さの渦中で、本作のごく一部の投資家達のように、真実を見抜き、その異常性を指摘することができていただろうか。経済に限らず、社会に存在する様々な異常性というのは、後にそれが分かりやすく総括され明文化されなければ、一般に認知されることはないだろう。現在の社会をしっかり見ることができなければ、将来、本作のように、幻影に振り回される我々の愚かしさは、コメディーとして映画化されかねないのである。『マネー・ショート 華麗なる大逆転』は、そこまで先回りして考えさせるような、ある種の予言的な恐怖をも垣間見せてくれる。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』
3月4日(金)よりTOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー
監督:アダム・マッケイ
出演:クリスチャン・ベール、スティーブ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピット
脚本:チャールズ・ランドルフ、アダム・マッケイ
原作:マイケル・ルイス「世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち」(文春文庫刊)
配給:東和ピクチャーズ
原題:「THE BIG SHORT」/2015/アメリカ 
公式サイト:http://www.moneyshort.jp

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる