西島秀俊も香川照之も昔はこの風景の中にいたーー『クリーピー 偽りの隣人』の強烈な黒沢清濃度

宇野維正が黒沢清『クリーピー』をレビュー

 北九州監禁殺人事件、あるいは原作が書かれた時点ではまだ明るみになっていなかった尼崎連続変死事件など、本作のテーマは、近年の日本で起こったいくつかの忌々しくも恐ろしい実際の事件を嫌でも想起させるものだ。西島秀俊も香川照之も、今では初めて黒沢清作品に出演した時とは比べものにならないほど役者としてのステータスが上がっている。しかし、もちろんあの黒沢清がただの社会派作品を撮るわけがなく、スター映画を撮るわけもない。これだけタイムリーな題材と実力面でも人気面でも文句のつけようのない役者陣が揃ったのだから、いっそのことエンターテインメントに吹っ切った作品を観てみたかった気もするのだが、「三つ子の魂百まで」ということなのだろう。本作は、21世紀に入ってから最も「あの黒沢清」らしい黒沢清作品となった。

■宇野維正
音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」ほかで批評/コラム/対談を連載中。著書『1998年の宇多田ヒカル』(新潮新書)、2016年1月16日発売。Twitter

■公開情報
『クリーピー 偽りの隣人』
6月18日(土) 全国ロードショー
出演:西島秀俊、竹内結子、川口春奈、東出昌大、香川照之ほか
監督:黒沢清
原作:「クリーピー」前川裕(光文社文庫刊)
脚本:黒沢清、池田千尋
音楽:羽深由理
製作:「クリーピー」製作委員会
制作:松竹撮影所
配給:松竹、アスミック・エース
(c)2016「クリーピー」製作委員会
公式サイト:creepy-movie.com

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