『最愛の子』が浮き彫りにする児童誘拐の闇ーー女優・大塚シノブが中国社会派映画の背景を読み解く
『最愛の子』は大きな影響力を持った
ただ一つの救いは、映画では被害者側家族が加害者側の母親に、やや冷たい態度を示しているのに対し、実際のドキュメンタリーでは被害者側は加害者側の母親の気持ちも考慮し、一人の人間として温かみを持って接しているということだ。これは中国人ならではの情深さであるのかもしれない。誘拐という事実さえなければ、こんな苦しい現実に直面することはなかったはずなのに。これこそが児童誘拐の実態であり、現代中国の抱える深い闇でもある。
『最愛の子』は、中国国内で大きな注目を集めたことにより、後に刑法までもが改正された。中国には多くの社会派ドラマがあるが、これほど大きな影響力を持った作品は珍しいだろう。本作が多くの人々の関心を得たのは、ヴィッキー・チャオら名優たちの迫真の演技と、名匠ピーター・チャン監督の手腕によって、真の人間の繋がりを考えさせられるヒューマンドラマに仕上がっていたからにほかならない。(ちなみに、ピーター・チャン監督は、私が強くお勧めしたい香港映画『ラヴソング』も手がけている。劇中歌であるテレサ・テンの「舐蜜蜜」が頭にこびりつくほど観た)
重い実話をもとにした作品のため、本作はエンターテイメントとして気軽に楽しめるような作品ではないし、児童売買は許されざる犯罪である。しかし私は、人間味溢れるドキュメンタリーを、こうしたかたちで映画化し、考える機会を与えてくれたことに感謝したい。そして、近年映画監督としても活躍し、女優・監督・母として、パワフルな生き様を我々に見せてくれるヴィッキー・チャオを、一人の女性としてて益々応援していきたい。
■大塚シノブ
約5年間中国在住の経験を持ち、中国の名門大学「中央戯劇学院」では舞台監督・演技も学ぶ。中国・香港・シンガポール・日本各国で女優・モデルとして活動していたが、芸能以外の活動を広めるため芸能活動を一時休止。今年から新たなビジネスを始め、中国等での活動も再開予定。
■公開情報
『最愛の子』
2016年1月16日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
監督:ピーター・チャン
出演:ヴィッキー・チャオ、ホアン・ボートン・ダーウェイ、ハオ・レイ、チャン・イー キティ・チャン
配給:ハピネット+ビターズ・エンド
宣伝:ビターズ・エンド+シャントラパ
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公式サイト:https://bitters.co.jp/saiainoko/