「できるだけ容赦なく、冷淡に」スコット・クーパー監督が語る『ブラック・スキャンダル』のギャング描写

『ブラック・スキャンダル』監督インタビュー

 あらゆる凶悪犯罪に手を染め、ボストン裏社会に君臨した伝説のギャングスター、ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャー。ウサマ・ビン・ラディンに次ぐFBI最重要指名手配犯に認定され、賞金2億4000万円にまで膨れ上がった彼の半生を描いた『ブラック・スキャンダル』が1月30日に公開される。ジョニー・デップが衝撃のビジュアルでバルジャーを演じるほか、ベネディクト・カンバーバッチやジョエル・エドガートン、ケビン・ベーコン、ダコタ・ジョンソンらが脇を固め、ギャングとFBIと政治家による、アメリカ史上最大の汚職事件を描き出す。メガホンを取ったのは、長編デビュー作『クレイジー・ハート』で主演のジェフ・ブリッジスにアカデミー賞主演男優賞をもたらし、前作『ファーナス/訣別の朝』で兄弟の熱い絆を描いたスコット・クーパー監督だ。彼はどのような想いで本作を手がけたのかーー。リアルサウンド映画部では、クーパー監督に電話取材を行い、本作についてじっくり話を聞いた。

「今回ジョニー・デップが最も大きく変化したのは、感情的、心理的な面だ」

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スコット・クーパー監督

ーー本作でメガホンを取ろうと思った一番の決め手は何ですか?

スコット・クーパー監督(以下、クーパー):私がニューヨークに住んでいた頃、ジェームズ・“ホワイティ”・バルジャーの驚くべき話がボストンから海岸沿いに伝わってきたんだ。彼の悪名高き行動もよく知っていた。ちょうどそのとき、私がいたところから数マイルしか離れていない場所で、彼は逮捕されたんだ。ある1人の男が歴史的に悪名高いギャングである一方、弟は有力な政治家であることが、とてもシェークスピア的で惹きつけられた。その上、幼なじみの友人が出世して担当のFBI捜査官になり、FBIの与えた殺しのライセンスを手にしたバルジャーは、やりたい放題に権力を拡大していくことになる。やらない理由はないくらいに、この話にものすごい魅力を感じたんだ。

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実際のジェームズ・“ホワイティ”・バルジャー

ーー映画化するにあたり、バルジャーに関するリサーチもかなりされたそうですね。

クーパー:撮影前の約6ヶ月間、脚本を書き直しながら彼に関するリサーチをしたよ。脚本を書き直す前には、ボストンのFBIやバルジャーを逮捕したロスのFBI、バルジャーを取り巻く“ウィンターヒル”ギャングたちを逮捕した検察官とも会い、密に話をした。ボストン南部のサウシーというコミュニティーで、実際のバルジャーを知る人たちにも会った。犯罪者が関わるとき、人は記録に残ってほしいことを話すから、真実を掴むことは非常に難しい。だから調査はかなり綿密に行った。ドキュメンタリーだと、本当の意味での真実を伝えなければいけないが、この作品は劇映画だから、少しの自由は与えられていた。だから、この映画の中にも、実際に彼が行ったかどうかはわからないが、武器を使って暴力を振るばかりではなく、心理的な暴力も振るうという彼の人間性を反映させた、心理的に人を追い詰める様子も描かれている。

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『ブラック・スキャンダル』(c)2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., CCP BLACK MASS FILM HOLDINGS, LLC, RATPAC ENTERTAINMENT, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

ーーバルジャーの魅力は何だと思いますか?

クーパー:暴力を言語としていたバルジャーが魅力的だと言えるかどうかはわからないが、そのひとつには権力があると思う。でも忘れてはいけないのは、彼にはFBIという隠れた味方や、かなりの権力を持った政治家の弟の存在もあったということだ。ただ、バルジャーのことを知る人によると、彼のことを魅力的な人間だという人や、地元の人たちにはよくしていたという話があったんだ。私が地元の人に出演をお願いしたとき、彼らはこの作品には関わりたくないと言ったんだ。バルジャー兄弟は2人とも、自分たちや地元社会にはとても尽くしたからだそうだ。

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『ブラック・スキャンダル』(c)2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., CCP BLACK MASS FILM HOLDINGS, LLC, RATPAC ENTERTAINMENT, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

ーーバルジャーの役づくりについて、どのようなアプローチを行ったのでしょうか?

クーパー:ジョニー(・デップ)と私は相当時間をかけて、役作りについて話し合いを重ねた。映画の最後には、FBIから提供された監視カメラの映像で本人の姿が映る。そこでわかるように、バルジャーは禿げた頭、人を射るような鋭い青い目、そして筋骨たくましい体型をしている。僕とジョニーは、彼の動きや歩き方、アクセント、心理状態などを話し合った。ジョニーの場合、ルックスはいつも演じる役によって変化するが、今回最も大きく変化したのは、感情的、心理的な面だ。ジョニーはとても優しくて心の温かい人間だけど、スクリーンで観る彼は正反対で、冷酷で冷淡。魅力的な部分はあっても、暴力的で、とても恐ろしい人間だ。私の目的はジョニーを微妙に演出することだった。彼が微細で現実的に描かれれば描かれるほど、より冷淡でもっと怖くなると思った。動きや瞬きが少なければ少ないほど、身の毛のよだつような怖さを感じるんだ。

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