中村蒼、“食われるイケメン”から“食う個性派”へ 『無痛~診える眼~』で見せる同世代俳優への反撃
つまり、難役は『無痛』にはじまったことではなかったのだ。さわやかなルックスにだまされてはいけない。いや、むしろさわやかなルックスをベースに、相反するクセの強い役をかけ合わせて何気ない異物感を放つのも、中村のスタイルなのだろう。「俳優は常に壁を壊していかなければいけない仕事」というコメントからも、さわやかなイケメン役だけでなく、クセのある難役と意欲的に向き合っていることがわかる。
そして、もう1つ見逃せないのは、中村の演技スタンス。失礼ながらこれまで中村は、「主演なのにそれほど印象が残らない」「脇役俳優のほうが目立っていた」ということが何度かあった。たとえば、昨年放送された『なぞの転校生』(テレビ東京)は主演ながら、アンドロイド転校生・山沢(本郷奏多)や別世界の姫(杉咲花)のほうが存在感は大きかったし、実質的な主演だった『学校じゃ教えてられない!』、30人を超えるイケメンのトップだった『花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス』でも、他の生徒役に食われるシーンが散見された。
正直なところ、それが「周囲を生かす懐の深さなのか」、それとも「単に淡々とした人柄なのか」、つかみどころがなかったのだが、『無痛』でのイバラを見ていると、これまでにない自己主張を感じる。実際、西島、伊藤らの先輩俳優を食っているシーンもあるし、それはもしかしたら“食われるイケメンから食う個性派への進化”なのかもしれない。
『MOZU』(TBS系)の池松壮亮、『デスノート』(日本テレビ系)の窪田正孝、『みんな!エスパーだよ!』(テレビ東京系)の染谷将太、『民王』(テレビ朝日系)の菅田将暉など、同世代の俳優たちは、振り切った役作りと爆発させるような感情表現で、「若き演技派」との声も多い。しかし今年の中村が見せる、胸の奥で魂を焦がすような演技は、十分彼らに対抗できている。もしかしたら今の中村は、どんな難役が訪れても嬉々として演じるのではないか。その意味で、演じることに対して中村本人が“後天的”無痛症なのもしれない。中村の進化を実証するために、より過酷なオファーをぶつけてほしいと思う。
■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。番組やタレントがテーマのコラムを各メディアに毎月20~30本提供するほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。