『ヴィジット』に仕組まれた重層的なトリック 奇才・シャマラン監督の試みを読む

『ヴィジット』に仕組まれた重層のトリック

 この映画で用いられるPOVという撮影方式は、近年の低予算スリラーでここぞとばかりに使われ、定番となるどころか、その当初の斬新さはすでに廃れてしまった印象がある。流行りの先駆けとなった『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や、先日公開された『死霊高校』のように、意図的に撮影されたものと、『クローバーフィールド』のような意図せず記録されたものなど、様々な形に分類することができるが、多くの場合、その不安定なカメラワークを利用した“素人が撮るドキュメンタリー映画”という前提で成立した擬似ドキュメンタリー(モキュメンタリー)である場合が多く、本作もティーンエイジャーの姉弟が好奇心でカメラを回し続ける擬似ドキュメンタリーの形を呈している。

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 序盤から母親のインタビュー映像で始まり、不安定なショットや、セルフショット、驚愕してカメラが落下したり、寝室や部屋の様子を監視するために据えていたりと、これまでのPOV映画でやり尽くされた方法論をほぼすべて(『クロニクル』のような自在性はないにしても)出し尽くしているのである。しかし、観ているうちに妙なことに気が付き始めることであろう。意外なほど丁寧に、カッティングが為されているのである。祖母が料理を始めるときの工程や、2台のカメラを使って向かい合わせでインタビューをするシーンなど、普通の映画と同じように編集がされているということに、逆に違和感を覚えてしまうのである。

 それがどういうことなのか、もちろん劇中にオーストラリア出身の新進女優オリビア・デヨング演じる姉のベッカがノートパソコンを使って素材を編集しているシーンが登場する。この映画監督志望の少女は映画作りに熱中しているシャマラン自身の姿が投影されているのだと、シャマラン自身が語っていた。そう考えると、そんなシャマランの化身である彼女が、正直なドキュメンタリーを撮るのだろうか。一見すると、シャマラン監督による最表層の『ヴィジット』という映画の中で、ベッカという少女が撮ったドキュメンタリー映画を観せられているというのがこの映画の構造に関する通説であろう。だが、このベッカが撮ったドキュメンタリー映画こそが、擬似ドキュメンタリーであるという重層のトリックになっているのではないかとも観ることができる。終盤にふと訪れるデジャブと、油断させるようなエンドロールで気付く、ちょっとした違和感を整理するためには、16年前と同じように何度も何度も劇場に足を運ぶ必要が出てくる。

 やはりM.ナイト・シャマランという男は一筋縄ではいかない。このジャンルでこそ輝くべき存在であると言って間違いない。早くも次回作が2本準備されており、そのどちらもがスリラー映画であるというのだから、これは期待せずにはいられない。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

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■公開情報
『ヴィジット』
10月23日(金)TOHOシネマズ みゆき座ほか全国公開
監督・脚本:M・ナイト・シャマラン
製作:M・ナイト・シャマラン、ジェイソン・ブラム、マーク・ビエンストック
出演:キャスリン・ハーン、ディアナ・デュナガン、ピーター・マクロビー、エド・オクセンボールド、オリビア・デヨング
上映時間:94分
配給:東宝東和
(C)Universal Pictures.
公式サイト:http://THEVISIT.jp

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