バイオレンス映画の巨匠、サム・ペキンパーの素顔ーー情熱に満ちたドキュメンタリーを観る
そんなペキンパーの情熱に感化された人間として、もうひとり忘れてはならないのは、本作の監督を務める1967年生まれのドイツ人、マイク・シーゲルの存在だ。ペキンパー映画の熱狂的なファンであり、映画史家でもある彼は、2000年、イタリアのパドヴァでペキンパーの回顧展を共催。小規模な催しではあったものの、ジェームズ・コバーンをはじめ、ペキンパーゆかりの人々が多く参加したその回顧展で、ペキンパーの関係者たちと交流を結んだ彼は、その場でペキンパーのドキュメンタリーを作ることを決意したという。商業映画など撮ったこともないにもかかわらずだ。当然ながら、その撮影は困難を極めた。ノーギャラでのインタビューを一日ごとに拒んだというL・Q・ジョーンズ、撮影当日に歯医者の予約を入れていたアーネスト・ボーグナイン……。マイク・シーゲルが自らの私財を投げ打ち、ほとんどひとりで作り上げた本作がようやく完成したのは、それから5年後の2005年。この情熱は、並大抵のものではない。というか、ある意味、荒唐無稽と言ってもいいだろう。
それからさらに、10年のときが流れた。本作に登場し、ペキンパーの思い出を語っているジェームズ・コバーン(2002年没)、アーネスト・ボーグナイン(2012年没)、R・G・アームストロング(2012年没)……彼らはもはや、この世にいない。晩年、アルコールとドラッグにはまり、体調を崩しながら1989年、心不全でこの世を去ったペキンパーをはじめ、本作に登場する多くの人々は、すでにこの世を去っている。しかし、フィルムに刻みつけられた「情熱」は、けっして消えることがない。変革のときを迎えていた70年代のアメリカ映画界を、その「情熱」の赴くまま、ワイルドに駆け抜けて行った者たち……ペキンパーを頭目とする“ワイルドバンチ(ならず者集団)”の破天荒な「情熱」は、今もなおその「熱」を湛え続けているのだ。
(文=麦倉正樹)
■公開情報
『サム・ペキンパー 情熱と美学』
シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中
監督:マイク・シーゲル
出演:サム・ペキンパー アーネスト・ボーグナイン ジェームス・コバーン クリス・クリストファーソ R・G・アームストロング センタ・バーガー アリ・マッグロウ イセラ・ベガ L・Q・ジョーンズ マリオ・アドルフ デイヴィッド・ワーナー ボー・ホプキンス ヴァディム・グロウナ ロジャー・フリッツ ガーナ―・シモンズ ルピタ・ペキンパーほか
ナレーション:モンテ・ヘルマン
(C)2005-2015 El Dorado Productions. All rights reserved.
公式サイト:www.doc-peckinpah.com