渡辺謙、森山未來、綾野剛、広瀬すず・・・・・・吉田修一原作『怒り』キャスティングへの期待
李相日監督による『悪人』のほか、大森立嗣監督の『さよなら渓谷』、沖田修一監督の『横道世之介』、あるいは行定勲監督によって連続ドラマ化された『平成猿蟹合戦』など、気鋭の監督たちが続々と映像化し続けている吉田修一の小説。その最新映画化作品である『怒り』の主要キャストが発表された。渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず、ピエール瀧、三浦貴大、高畑充希、原日出子、池脇千鶴、宮崎あおい、妻夫木聡......まさしく、現在の日本映画界を代表するような豪華キャストによるアンサンブル。これが期待しないでいられようか。
原作小説の着想の源となっているのは、外国人講師を殺害したあと、長年逃亡生活を経て逮捕された市橋達也の事件である。しかし、吉田修一は実際の事件を追うのではなく、ふと目の前に現れた前歴不明の若者に対して、周囲の人々がどう心を開いてゆくのか、そしてどのように彼らを疑うようになるのか、に焦点を当てながら物語を描き出した。恐らく映画版も、この基本プロットに則って描き出されるのだろう。物語の舞台となるのは3つの土地......千葉、東京、沖縄の3箇所だ。都会で風俗に身をやつしボロボロになった娘(宮崎あおい)とふたり暮らしを始めた千葉の漁師(渡辺謙)。東京の大手広告代理店に勤めるゲイの若者(妻夫木聡)。沖縄の離島に引っ越してきたばかりの女子高生(広瀬すず)。それぞれの前にある日、松山ケンイチ、綾野剛、森山未來が演じる3人の前歴不明の若者が現れる。そして、殺人逃亡事件を追う刑事(ピエール瀧)の姿も......果たして、この3人のなかに犯人はいるのだろうか?
その見どころとして、真っ先に挙げられるのは、同じく李相日監督の映画『許されざる者』に主演し、最近ではブロードウェイでミュージカル『王様と私』に主演したばかりの渡辺謙が、久々の日本映画でどのような芝居を見せてくれるのかだろう。とはいえ、やはり気になるのは、松山、綾野、森山といった若手演技派俳優たちが、過去の無い「謎の若者」たちをどのように演じるかだ。そして、宮崎、妻夫木、広瀬は、それをどう受けるのか。原作に忠実に描くとするならば、特に宮崎の役柄は、これまでのイメージとは大きく異なるものと予想される。さらに、直接的には交わることのない3つの物語を繋ぐ刑事役として、映画『凶悪』やドラマ『64』などの芝居が高評価を獲得しているピエール瀧が抜擢されている点にも注目したい。千葉、東京、沖縄......3つの物語がそれぞれに迎える衝撃の結末から、李監督は「人を信じることの難しさ」を、果たしてどのように描き出してゆくのだろうか。原作ファンのひとりとして、役者たちの熱演と李監督の手腕に大いに期待したいところである。2016年秋公開予定。
(文=麦倉正樹)
■作品情報
『怒り』
2016年秋に全国公開
監督:李相日
原作:吉田修一『怒り』(中央公論新社)
出演:渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛、広瀬すず、佐久本宝、ピエール瀧、三浦貴大、高畑充希、原日出子、池脇千鶴、宮崎あおい、妻夫木聡
配給:東宝