『黒牢城』映画化で“ネオ時代劇ムーヴメント”が世界を席巻? 黒沢清 × ミステリ × 時代劇の衝撃
米澤穂信の直木賞受賞作『黒牢城』が、黒沢清監督・脚本で映画化され、2026年に全国公開されることが発表された。主演は本木雅弘。菅田将暉、吉高由里子のほか、青木崇高、宮舘涼太、柄本佑、オダギリジョーらが名を連ねる。
“城という密室”で起こる連続怪事件を、籠城する城主・荒木村重と、地下牢に囚われた軍師・黒田官兵衛が追う――歴史小説×本格ミステリの傑作が、いよいよ映像になる。
歴史小説に詳しいライターの麦倉正樹氏は、原作の魅力も去ることながら、制作陣やキャストにも大きな期待を寄せている。とりわけ胸が躍るのは、黒沢清が本格時代劇に初挑戦する点だという。
「黒沢監督は“闇”の演出が上手い。時代劇って、暗がりが似合うじゃないですか。しかも戦国の城内なら、幽霊や怪異めいた現象が起きても“あり”にできる。何が起きてもリアリティが成立しうる舞台です」
また、合戦のスペクタクルではなく、閉ざされた空間での疑心暗鬼と心理戦が核になる原作は、黒沢作品が得意とするサイコスリラーの領域と地続きだと見る。
麦倉氏が面白がるのは、『黒牢城』の構造そのものだ。城主が、囚われの“知恵者”に事件解決の助言を乞う。しかし相手は素直に教えず、互いに揺さぶり合いながら会話の主導権を奪い合う――「牢獄の中の対話劇」という骨格が、黒沢映画の見せ場になり得るという。
「対峙する者同士が、自身の実存を賭けて言葉をぶつけ合う。その会話の緊張感こそ黒沢映画の売り。今回、原作との相性はかなりいいと思います」
キャスト面でも期待は大きい。荒木村重役の本木雅弘、黒田官兵衛役の菅田将暉、そして村重の妻・千代保役の吉高由里子という“主演級を三枚並べた”布陣について、麦倉氏は「黒沢映画としては久々のスケール感では」と語る。実際、公式発表でも三人に加えて、青木崇高、宮舘涼太、柄本佑、オダギリジョーらが出演し、城内劇の濃密さを支える布陣になっている。
麦倉氏は特に「本木雅弘 × 菅田将暉の“舌戦”は、どう考えても面白い」と注目。黒沢清作品『Cloud』でも主演を務めた菅田が再び黒沢組で“知の怪物”を演じることに、原作ファンとしても映画ファンとしても期待が膨らむという。
そして麦倉氏は、本作が国内の話題作にとどまらず、世界へ届く可能性にも言及する。
「黒沢清の新作は、常に国際映画祭が注目する“待たれる作品”になっていますし、『黒牢城』は心理サスペンスとして、海外の人にも注目されやすい題材ではないかと思います。もちろん、黒沢監督が本作で初の時代劇に挑むこと自体が、国際的にも“事件”になり得るでしょう」
近年、歴史小説は豊作が続き、映像化の波もようやく厚みを増してきた。その追い風を象徴するのが、海外で日本の戦国世界が受け入れられた事例だ。たとえばドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』は、英語圏の大作として世界的に成功し、エミー賞で多数受賞したことが報じられている。今村翔吾の小説『イクサガミ』がNetflixで連続ドラマ化したことも記憶に新しい。
「いま、日本の時代物は『古典的な水戸黄門的様式』だけでなく、ジャンルを横断して“最新型”としてアップデートされつつあると思います。アニメやJ-POPが世界的にも注目されていますが、次は“ネオ時代劇ムーヴメント”とでもいうべき新たな潮流が生まれるのではないでしょうか。その最前線に立ちうるのが『黒牢城』です。時代劇とはいえ、歴史的な知識がそれほどなくても楽しめる構造の物語なので、その意味でも間口が広い。戦国の城郭という閉鎖空間を舞台に、ミステリの快楽と、時代劇の陰影と、黒沢清の心理描写が交差する。並びそうで並ばなかった三つが並んだ、まさに大本命の時代劇映画となりそうです。」
時代劇×本格ミステリ×黒沢清が噛み合ったとき、本作は“次の歴史小説ブーム”を世界規模で加速させる突破口になるかもしれない。