お人よしのおまわりさん&もちもちボディ猫の不思議な物語ーー人気シリーズ「おまわりさんと招き猫」最新5巻のキーは“夢”?
「おまわりさんと招き猫」(著:植原翠・イラスト:ショウイチ/ことのは文庫)は、人とひとならざるモノ(そういうもの)たちの、ふしぎで優しい出来事が綴られるシリーズ。海辺に位置するかつぶし町のかつぶし交番に勤務する、お人よしのおまわりさん・小槇悠介と、交番に昔から住みついているもちもちボディのふしぎ猫・おもちさんが物語の中心である。
第1巻の『あやかしの町のふしぎな日常』にはじまり、新たに発売となった『夢みる旅の通り道』で第5巻を数える。時に妖怪とも呼ばれる、いわゆる“あやかし”がそこここに顔を出す、全体をふわりと包む温かな空気と、それだけではない、晴と雨、陽と影、別れと再生のような、両面をふっと感じさせる世界観も魅力的なシリーズだ。今回は、“夢を食べる”とされる白黒のマレーバクが登場。夢と現(うつつ)がないまぜになり、さらに輪をかけた“あやかし”物語が展開していく。
不思議をそのままに受け入れる距離感が心地よい
猫の「おもちさん」の呼び名は、短いしっぽにうすい茶の模様、ころころと太ったボディが、焼いたおもちに見えることから来ている。おもちさんはおやつが大好き。そんなおもちさんのおやつ管理も、かつぶし交番のおまわりさんの大事な業務だ。
「こんにちは。おまわりさん、おもちさん」
「こんにちは」
「ですにゃ」
こちらは彼らと、町を散歩していたおばあさんとの“何気ない”会話からの拝借。
おもちさんは、人の言葉をしゃべる猫なのだ。5巻ともなると「僕」こと小槇くんとも、十分にバディともいっていい間柄だが、そもそもおもちさんは、小槇くんが赴任するずっと前からかつぶし町で暮らしており、彼とのみ会話するわけではない。町の人々みなから愛されてきた「言葉をしゃべる猫」。それ以上でもそれ以下でもない。
なぜ喋るのか、いったい何者なのか、誰も知らないし、詮索もしない。周囲に流れているのは、「撫でると願いが叶う」「おやつをあげるといいことがある」といった柔らかな言い伝えだけ。この距離感がなんとも心地よい。そんな町である。これまで河童が出たり、神隠しが起きたりしてきたが、町の人々だけでなく、同じく交番に勤務するベテランの笹倉さんや、小槇くんより少し年上でしっかり者の柴崎さんも、不思議な出来事が起きても、そのままに受け止める。
そこに赴任した小槇くんは、持ち前の正義感の強さから、奮闘して空回りし「自分は警察に向いていない」と悩むことも多いが、にじみ出る人並み以上の優しさに、人も人ならざるモノも自然と引き付け、相手の胸襟を開いている。ある意味、小槇の赴任によって優しさの強度を増したかつぶし町で、多くの不思議なエピソードが短編として綴られてきた。だが今作では、短編で進む構成は変わらぬものの、白黒のバクとなぞの旅人が1冊を通じて登場し、ミステリーのような雰囲気を漂わせる。
読者に託す広がりを持つシンプルで深い言葉の数々
「春ですにゃ」
「春ですね」
その日は気まぐれなおもちさんも一緒に、平和な町をパトロールしていた。異常ナシと確認を終えたと思ったところで、小槇くんは海辺に鎮座する中型犬程度の白黒の「マレーバク」を目撃する。微動だにしないその姿に、子ども用の遊具が置かれたのかなと思った次の瞬間、バクは姿を消した。その日から、似た通報や目撃証言が次々とかつぶし交番に入るようになる。
同じころ、トレンチコート姿でタバコの煙とにおいをまとった「夜見る夢を蒐集している」という作家の暁(あかつき)が町にやってきて、民宿に長期滞在を始めた。作家というだけで、何の作家なのか分からない暁氏に、小槇くんが「何を作っているんですか」と質問すると、暁氏は「見た夢をひとつ教えてくれたら、質問にひとつ答えよう」と提案。そのルールをうまく利用され、小槇くんは暁氏が何者なのか、なかなかたどり着けない。そうこうするうち、季節は春から夏へ。同時に、町の景色が何やらおかしな変化を遂げていく。住民同士が同じ夢を見たり、夢に登場したものが現実に現れたり。どうやら夢とうつつの境界があいまいになっているようで……。