村上春樹、柚木麻子、太宰治……米国での反響は? 紀伊國屋書店ニューヨーク本店店長に聞く、日本の書籍の売れ筋
海外人気の代表格・村上春樹の売れ行きはどうだろうか。
「村上春樹さんはもう誰もが知っている定番の存在となりました。今でも非常に人気です。去年の秋に新刊『街とその不確かな壁』の英訳版が発売された時には、店に『(日付の変わる)深夜から販売しないのですか』という問い合わせが来るほどで、発売が大ニュースだということを実感しました。物語の魅力に加え、原文の雰囲気を再現した文章もその人気の秘訣となっています」
そして、今、特に注目なのは、現代文学の女性作家たちだという。最新トレンドを追う読者たちが、新たな作品を求めて紀伊國屋書店を訪れている。イギリスの文学賞を受賞した『BUTTER』をはじめとした作品の反響について聞いた。
「柚木麻子さんの『BUTTER』は硬派な内容ですが、アメリカでも非常に人気です。どこの書店にも置いている印象があります。殺人の容疑で逮捕された梶井真奈子を、主人公の週刊誌記者の町田里佳が何度も訪ねていくが、次第に梶井の思考に引きずり込まれていく、というストーリー。サスペンスのような雰囲気が独特で、ルッキズムに対する鋭い洞察も物語の魅力を引き立てます。またこちらでは、作中の料理の描写が、物語とうまくミックスされているという評価もあるようです。柚木さんのほかにも、『コンビニ人間』の村田沙耶香さんや、小山田浩子さんなど、日本でのヒットからタイムリーに英訳出版される女性作家の文学が当地でも受け入れられる印象があります」
癒しや精神的な安らぎを求める読者には猫や書店、カフェをテーマにした物語が受け入れられ、文学好きの間ではより硬派な文学が浸透してきている。日本文学は、米国読者にとって異国の文学という枠を超えて、より身近な存在となってきているのかもしれない。新旧作品が並行して評価される中で、今後の日本文学の海外での展開には、ますます注目が集まりそうだ。