「漫画やアニメはもちろん、フィギュアもいずれ日本美術史の中で評価される」日本美術史における模倣と熟成の「波」

フィギュア職人やアニメーターも日本美術史の中へ

――すごく面白いですね。「リバイバル」や「再評価」みたいなことは、昔からあったという。本書はそういった美術史の流れを、明治あたりまで解説した本ですが、その後の日本美術、あるいはこれからの日本美術は、どんな感じになっていくと思いますか?

山本:日本美術と言ったときに、どの領域までを入れるかという問題はあると思います。私は漫画やアニメはもちろん、フィギュアのようなものもいずれ日本美術史の中で評価されると考えています。その境界線上に、村上隆さんがいたりするわけですが、私としてはフィギュア職人みたいな人たちも押さえたほうが良いと思います。アニメの世界も同じで、いわゆる「監督」だけではなく、実際に絵を描く職人的な技を持ったアニメーターたちを含めて評価していくと、かなり層が厚くなって、日本美術がもっと面白くなっていくんじゃないかなと。

――なるほど。

山本:実際、その領域は以前よりもだいぶシームレスになってきている印象です。何年か前に、聖徳太子ゆかりのものを集めた展覧会の最後に、山岸凉子さんの漫画『日出処の天子』の原画パネルが展示してありましたが、そういうことはもはや珍しくない。漫画を最初に日本美術史の中に組み入れたのは、恐らく美術史家の辻惟雄さんですね。今から30年ぐらい前に、日本の美術史の最後に、手塚治虫や白戸三平を入れたんです。その当時はすごく大胆だなと思いましたけど、今考えると未来を見据えて接続していたのだと感じます。

――今はルーヴル美術館で、『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦さんの企画展示が開催されるような時代ですからね。

山本:そうですね。専門的な研究という面においても、以前は美術史と漫画研究がはっきりと分かれていたんです。だけど今は、その境界が崩れつつある印象で、それはそれで悪くないことだと私は思います。当時の芸能でも人形浄瑠璃や歌舞伎は、美術作品とすごく連動していたものだし、浮世絵もそうですよね。ひとつひとつが独立して存在していたわけではなく、特に近世以降は、お互いに影響し合いながら作品が生まれていったところがある。そういう意味で、今の漫画やアニメが好きな人たちも、この本を手に取って読んでもらえたら、きっと何か感じて新たなものが生まれるようなところがあるのではないでしょうか。

■書誌情報
『カラー新書 入門 日本美術史』
著者:山本陽子
価格:1,430円
発売日:2024年12月9日
出版社:筑摩書房

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