『シビル・ウォー』と併せて読みたい 2045年、分断されたアメリカを描くSF小説『マン・カインド』 

 もちろん、『マン・カインド』で印象的なのは「分断された合衆国」というアイデアだけではない。自転車のタイヤのようなディテールに至るまで考証されたガジェットや、ORGAN部隊の使う兵器類、現実空間と情報空間を積層して見ることができる「層化視」や、超超高層ビルである「ニードル」、テック企業の総本山となったサンフランシスコのようなランドスケープまで、エッジの効いたアイデアがこれでもかと投入されている。それらのアイデアは我々のよく知る生活空間と共存しており、物語の舞台が現在と地続きであることがうまく表現されている。

 加えて、アクションシーンがしっかりと盛り込まれた作品であることも重要だろう。戦争にはつきものの銃撃戦あり、カーチェイスあり、近未来の技術を活かした頭脳戦ありと、戦闘のシチュエーションやパターンにバリエーションがあるのも嬉しい。作品を縦に貫く謎とその答えも唸らされる内容だが、枝葉であるエンターテイメント的要素が盛られている本作には、活劇としての魅力も強い。

 しかしそれにしても、大統領選の年に『シビル・ウォー』と『マン・カインド』というよく似たバックボーンを持つ作品が立て続けに登場したことには、やはり驚かされる。前述のように『マン・カインド』は2017年から連載が開始された作品だが、『シビル・ウォー』も2024年にいきなり完成した作品ではなく、数年前から企画・製作されていた作品だろう。2016年以降、ある種の想像力の行き着く先として、「分断されたアメリカ」という題材は(こういう表現は語弊があると思いつつあえて書くと)魅力的だったのではないだろうか。

 もちろん『マン・カインド』はアメリカの分断自体を題材とした小説ではなく、内戦後のアメリカというアイデアは作品のバックボーンにすぎない。しかし、大統領選直前というタイミングで読むと、そのアイデア自体の味わいもまた格別だ。『シビル・ウォー』とならび、まさに今触れておくべき作品だと思う。

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