斜線堂有紀はとんでもない作家であるーー『ミステリ・トランスミッター』で示した圧巻の独創性

 いやもう、なんかもう、とんでもないものを読んでしまった。斜線堂有紀のミステリー短篇集『ミステリ・トランスミッター 謎解きはメッセージの中に』(双葉社)のことである。収録された五作はどれも面白いのだが、特に「妹の夫」と「ゴールデンレコード収録物選定会議予選委員会」が凄まじい。なので、この二作を中心に本書を紹介してみよう。

 冒頭の「ある女王の死」は、長らくヤミ金業界の女王と呼ばれていた榛遵葉が殺されたところから始まる。そこから時代が遡り、ヤミ金業者の真壁によって両親が自殺に追い込まれた十五歳の遵葉が、いかにして成り上がっていったかが綴られていく。真壁の趣味というか悪癖は、金を貸した相手とチェスをして、相手が勝てば返済を待つこと。ただし、いつでも勝つだけの力があり、最終的に相手は破滅する。真壁の下でヤミ金業を学んだ遵葉は、チェスに関することも受け継ぐ。このチェスの使い方が効果的であり、読みごたえのあるヤミ金業者の女王の一代記になっている。と思ったら、遵葉を殺した犯人が明らかになった後、チェスに別の使い方があったことが判明。優れたミステリーである。

 いきなり高水準の作品だとホクホクしていたら、次の「妹の夫」で、ぶっ飛んだ。ワープ航法が実現した未来。主人公の荒城努は、宇宙の彼方を目指す第一陣に志願した。地球にいる愛妻の琴音の部屋を映像で見ることができるが、ワープによる時間のズレ(いわゆるウラシマ効果)によって、どんどん間隔が空いていくことになる。ところが最初のワープ直前に、琴音が殺される場面を見てしまった。犯人は努の知っている人物だ。ワープが終わり、地上ステーションと連絡ができるのは、地球時間で七年後。しかも時間は二十分。事故により翻訳機能が壊れたため、努はフランス人の通信相手に、なんとか犯人の正体を伝えようとするのだが……。

 ウラシマ効果を扱った時間SFは、昔から書かれている。SFのアイデアとしてはオーソドックスだ。そこにミステリーを組み合わせたのが肝であろう。だが物語には、さらなる読みどころがある。なんと、コミュニケーションの問題がストーリーの中心になるのだ。言葉の通じない通信相手に、映像だけでどうやって犯人の正体を分かってもらうのか。読者が考えつく連絡方法を丁寧に潰して、努を切迫した状況に追いやる、作者の手際が素晴らしい。だから努の奮闘から目が離せないのだ。そして物語は、胸を打つヒューマンドラマとなって幕を下ろす。物語の各要素に目新しさはないが、それを組み合わせることにより、独創的なミステリーを創り上げた。凄い作品というしかない。

 その他、企みに満ちた手紙ミステリー「雌雄七色」、SF×ギャング小説×ミステリーの「ワイズガイによろしく」も、ユニークで面白い作品である。だが、本書で一番ユニークなのは、ラストの「ゴールデンレコード収録物選定会議予選委員会」だ。時は一九七五年、舞台はコーネル大学の会議室。そして物語の視点人物は、実在の天文学者のカール・セーガンである。

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