SNS時代にこそ効く、アンディ・ウォーホルの名言とは? 異色のビジネス小説『君はリンゴで世界を驚かせるだろう』がおもしろい

芸術家の名言は現代人にも効く

 『君はリンゴで世界を驚かせるだろう 現代アートの巨匠たちに学ぶビジネスの黄金法則』(ARISA/著、飛鳥新社/刊)は、サルバドール・ダリの生まれ変わりを名乗る謎の男“ダレ”が、魔法のガラケーを駆使し、歴史上の有名アーティストを呼び出しては、平気転記なサラリーマンの“タケオ”にビジネスのいろはを伝授していく異色のビジネス・エンターテインメント小説だ。

 関西弁を使うかなり怪しい人物ダレは、大阪・曽根崎にある「BARモダン」にタケオを呼び出し、まずはサルバドール・ダリの名言「天才になりたかったら、天才のふりをすればいい」を紹介して「自信」の法則を伝授する。その後も、パブロ・ピカソに学ぶ「アウトプット」の法則、アンディ・ウォーホルに学ぶ「影響力」の法則……などなど、芸術家の生き様や残した名言を紹介しては、悩めるタケオを救っていくのだ。

 混迷する時代を生き抜くビジネスマンの処方箋になり得るのが、現代アートの巨匠たちの生き様なのだ――と、ダレは説く。

ネット社会は何かと窮屈?

 何かと常識ばかりが求められるようになった現代社会を、窮屈に感じている人は多いのではないだろうか。インターネットが発達し始めたときは、多様性がもたらされるようになると期待した人も多かった。実際は逆であった。SNSでは“常識”が求められるようになり、少しでも変わった行動をとる人、他とは違う発言をする人がバッシングされることも増えた。

 もちろん、明らかな犯罪行為は問題外だ。しかし、芸能人やインフルエンサーが炎上し、騒動になるトラブルは些末な問題であることが少なくない。「そんなに叩かれるようなことかなぁ……」と思ってしまうこともしばしばである。

 例えば、現代人がとかく気にしがちなのは、SNSなどのネットで書かれているコメントである。近年、ネットに書かれたコメントをきっかけに、人間関係に悩み、メンタルがしんどくなる人が続出している。周りの目ばかりが気になり、本当にやりたいことをやれずに鬱憤が溜まっている人もいるかもしれない。

 いわゆるアンチコメントが書かれているのであれば、それに反発するのではなく、実はネットから離れるのが一番の解決策という意見もある。ところが、誹謗中傷のコメントが書かれていないか心配になり、エゴサーチを繰り返し、さらに精神的に負担を抱える人は少なくないといわれる。

SNSのアンチの発言は気にするな?

 そんな人に効くのが、ポップアートの巨匠、アンディ・ウォーホルの名言だ。『君はリンゴで世界を驚かせるだろう』の第6章では、ウォーホルに学ぶ「影響力」の法則が紹介されている。

 タケオがネットにUPした動画が瞬く間に1億回再生を突破した。最初は好意的な意見が多かったが、次第にアンチコメントが増え始め、落ち込んでいた。そんなタケオの前に現れたのがウォーホルだった。ウォーホルは「誰もが15分以内に有名になる、そんな時代が来る」と言い、動画が広まったこと、アンチコメントが多いことを「だから何?」と一蹴するのだ。そして、悩めるタケオに対してこう話しかける。

 「いつまでもウジウジ悩んで惨めな気持ちでいる代わりに、“だから何?”で終わらせることだってできるんだよ」

 「自分について何か書かれていても、その内容は気にしちゃいけない。大事なのは、どのくらいのスペースが割かれているかだ」

 まさにSNS中毒になっている現代人にこそ紹介したい名言だ。ウォーホルは20世紀を代表するポップアートの旗手であり、その奇抜な作品はたびたびメディアを騒がせ、芸術界からのバッシングも受けた。突飛な行動で世間を騒がせることも多く、現代的に言えばアンチも多かった。

 しかし、ウォーホルはそんな批判も「たいした問題じゃない」の一言で済ませていたのだ。アンチコメントを気にするくらいなら、自分のために時間をたっぷり使い、肯定してくれる友人や家族の言葉を大事にすればいいのだ。そして、自分の好きなことにでも没頭して、有意義な時間を過ごしたほうが遥かにいいのではないか――。

 SNSが存在しなかった時代に世界屈指のインフルエンサーの1人だったウォーホル。まるでSNS時代の到来を予見していたかのようにすら感じる彼の名言は、SNS中毒に陥っている現代人にこそ響くものがある。

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