『変な家』の飛鳥新社、ライト文芸レーベル「with stories」創刊の狙い 「挑戦したい人たちと純粋に面白いものを作りたい」

数字の壁に阻まれている人たちと面白いものを作りたい

――もともと飛鳥新社自体がそれほど小説を展開している訳ではない上に、多くの出版社が参入しているライト文芸で新レーベルを立ち上げること自体が挑戦的です。なぜ今、新レーベルを創刊したのですか。

内田:構想自体はかなり前からありましたが、実際に動き始めたのは2022年頃です。『変な家』が出て、若い人たちに向けた文芸というか、キャラクターが立った物語作品が出て非常に売れたということがあって、そのようなライト文芸を連続かつ体系的に出版すると面白いかもと思って挑戦しました。

――ライト文芸やライトノベル系の新レーベルは今、小説投稿サイトから人気作品を書籍化する動きが強いです。そうした方向での創刊は考えなかったのでしょうか。

内田:最初の頃は、そうした方向も考えてはいましたが、レッドオーシャンではあまり戦いたくなかったので、せっかくなら何か先鞭を付けるものをやりたいと考えました。飛鳥新社流の逆張りの発想です。マーケティングの真逆を行こうと(笑)。あとは純粋に、作品ありきで本を作っていきたいということがありました。作品を精査して、とにかく面白いものを出そうと思いました。また、なるべくゼロから作っていきたいという思いもありました。

――どのような作品を想定していますか。

内田:小説では今、マーケット主義の中で数字が見込めないものは出せないという状況があります。マーケットインの発想から似通った作品が多い。そこを変えたいということを常々思っていて、とにかくストーリーがめちゃくちゃ面白いとか、テーマや設定が際立っているとか、オリジナリティーにこそ価値があると考えて取り組んでいます。数字は気にしません。意識してしまうとその時点でもう負けてしまうと思っています。せっかく良いものを持っていたり才能があったりするのに、数字の壁に阻まれている人たちや新しいものに挑戦したい人たちと純粋に面白いものを作りたいと思っています。

――ライト文芸は『わたしの幸せな結婚』が人気の富士見L文庫や『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら』が大ヒット中のスターツ出版文庫など文庫形式が多いです。「with stories」はソフトカバーの単行本です。

内田:文庫は文庫のコーナーに置かれることが多いので、そこに行く目的がある人の目には止まりますが、ふだん本にあまり馴染みがない人にもリーチできる場所となると、一般書籍が置いてあるところだと考えました。想定している読者層はいわゆるMZ世代ですね。Z世代だけではなく少し上のM世代までリーチしていけたらと思っています。男女では女性の方が少し多くなるでしょうか。

――今後の刊行予定を教えてください。新人賞の立ち上げのようなことも考えているのでしょうか。

内田:夏前頃に次の作品が出る予定です。新人賞も考えていて、実施するとしたら少し先です。あとは、『水槽世界』のように出版エージェントの方から紹介していただいたり、海外で話題の作品を出したりとか。海外の出版社にはもう声をかけていて、世界規模で作品を探していければと思っています。こちらから海外展開もあります。『ハジマリノウタ。』がイギリスで読まれるような作品になれば良いですね。

――あとは映像化などですね。

内田:『水槽世界』が映像的に素晴らしいと思ったように、二次的な展開は当然意識しています。映画でもウェブトゥーンでも積極的に展開していきます。面白いものは万国共通です。そういう作品を作りたいと思っています。編集者もやっぱりサラリーマンで、事なかれ主義とか前例主義に陥ったり数字に左右されたりとかします。その中で一人くらいそうしたことに抗う編集者がいてもいいかなって思っています。しかし、よく考えると、飛鳥新社はそんな変な編集者が多いのかもしれません(笑)。

――期待しています。本日はありがとうございました。

■書籍情報
『ハジマリノウタ。』
著者:高橋びすい
価格:1400円
発売日:2024年4月23日
出版社:飛鳥新社

『水槽世界』
著者:文月 蒼
価格:1400円
発売日:2024年4月23日
出版社:飛鳥新社

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