連載:道玄坂上ミステリ監視塔 書評家たちが選ぶ、2024年1月のベスト国内ミステリ小説

藤田香織の一冊:佐々木譲『警官の酒場』(角川春樹事務所)

 人気のシリーズものの11冊目を紹介することに、不親切? とチラっと思いはしたものの、いやだって良かったんだよ! とまずは言わせて欲しい。『笑う警官』から連なる道警シリーズの最新刊である。競走馬の育成牧場が溜め込んだ「ヤバいカネ」を狙った強盗事件を主軸に、所属の異なる佐伯、津久井、小島らお馴染みのメンバーが其々の場所で仕事にあたる。のだけれど! これにて第一シーズン完!ということで、個々の様々な事情にも区切りがつく。これがいい。すごくいい。全作読み返したくなる時間泥棒作だけど特に『憂いなき街』はマスト。大人の純愛ヤバす!

酒井貞道の一冊:白川尚史『ファラオの密室』(宝島社)

 舞台は古代エジプトといいつつ、主人公(故人)が自らの心臓の欠片を探るためミイラとして一時復活し、他の登場人物がそれにそこまで驚かない特殊な世界観をベースとする。そして普通なら主人公個人の死の真相を追うはずの物語は、アクエンアテンの宗教改革と、エジプト神話の壮大な設定(設定言うな)の現実化により、スケールが加速度的に巨大化する。では謎解き小説の枠をはみ出すかというとさに非ず。真相解明では世界設定を完全に活かしきる。主人公個人の人生も綺麗に締めくくる。現代的価値観の織り込みも違和感なし。技ありです。

杉江松恋の一冊:森見登美彦『シャーロック・ホームズの凱旋』(中央公論新社)

 スランプのどん底に落ち込んだ名探偵をワトソンがなんとか奮起させようとするが、ホームズに替わる存在としてアイリーン・アドラーがデビューしたため、その目論見も危うくなり、という物語がなぜかヴィクトリア朝京都を舞台に語られる。名作『熱帯』を思わせる森見らしいパロディで、小説の部品一つひとつに意味があって素晴らしい。登場人物による、探偵小説とは何か、という問いかけが物語の根幹にあって、ミステリーとしても注目に値する内容なのである。全盛期の押井守監督が映像化したものがあったらぜひ見たいものだと思った。

 時代小説から古代エジプト・ミステリー、ホームズ・パスティーシュと今月もバラエティに富んだ作品が並びました。賑やかでいいことです。さあ、来月はどのような顔ぶれになりますことか。どうぞお楽しみに。

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