恋人同士になれない男女が見出した幸せのかたちーー畑野智美『ヨルノヒカリ』が描く救い

 普通じゃなくていい。自分は自分なのだし、恥じることは何もないのだから、誰にとやかく言われても気にしない。最初からそんなふうに胸を張れる強さを持つ人が、いったいどれほどいるのだろう。はたから見て強そうな人たちも、自分はこういうふうにしかできない、なれない、という諦めに似た開き直りと、世間一般の〝普通〟から外れていることに対するうしろめたさを、行ったり来たりしながらどうにか前に進んできた結果、そう見えているだけなのではないだろうか。

 人が自信をもつには、自分で自分に「これでいいのだ」と言い聞かせているだけではちょっと足りなくて、社会的に成功したり、絶対の味方になってくれる他者を見つけたり、外側からの承認を得てようやくうしろめたさを払拭し、胸を張れるのではないかと思う。だから物語の多くで、主人公は成長し、恋愛を成就させる。でも、光と木綿子に、それはない。とくべつな成長はしないまま、ただ自分たちの心を、生活を守り、相手に優しくあろうとし続けているだけだ。

 それこそが、本作の救いであるような気がする。社会的に成功なんてしなくても、恋になんて落ちなくても、人は自分の居場所を見つけることができる。変わらなくても、幸せになれる。そんな希望を、二人が見せてくれるのだ。

■書籍情報
『ヨルノヒカリ』
著者:畑野智美
価格:¥1,980(税込)
発売日:2023年9月7日
出版社:中央公論新社

関連記事