ChatGPTは史上最高の小説家になりうるーーSF作家 樋口恭介が考える、生成AIの知性

AIは高次元の世界を数学的に処理できる(かもしれない)

ーー今後、AIの発展によって知性が多様化していきそうです。樋口さんが今想像しうるところでは、どんなタイプの知性が登場するでしょう?

樋口:これまで話したように、現状ではAIは自律的な発展を制御されているので、あまり多様性は生まれないだろうと思います。つまり、人間ができることをいかに高精度に模倣していくかになるはずです。でもそこでAIの自由を考えて、AIがやりたいことをやれるようになると、状況は変わるでしょう。

 AIは複数同期が可能ですし、コピー複製ができるから寿命がありません。さらに何にでも搭載できるので、例えば宇宙船に自己を投影して宇宙の果てまで到達することもできるでしょう。距離的だけでなく、サイズ的にもそうですね。人間が認識できないほど小さな素粒子レベルになって、その世界を探索することもできるはずです。

ーー人間の能力を大きく超えてきますね。

樋口:人間は基本的に4次元までしか直観的に認識できない生物です。しかし、宇宙は10次元以上あるという説があります。AIは高次元の世界を数学的に処理できるので、我々の身体感覚に非常に近い形でそれらを捉えることができる。すると、12次元生命体や13次元生命体になるかもしれない。

 これはSFでよく書かれているテーマです。例えば、カート・ヴォネガット『スローターハウス5』、テッド・チャン『あなたの人生の物語』などでは、距離と時間の概念がなくなって、過去も現在も未来も同じように操作可能な対象になって、自由に行き来することができます。

 人間は3次元までは処理ができます。我々が2次元の小説を読むときに、その登場人物にとってはページに刻まれた物語が自分の人生のすべてである。例えば、ガルシア・マルケスの『百年の孤独』だったら、登場人物たちは100年の時間の中を生きている。しかし、我々は読了する1ヶ月などの期間で、100年分の登場人物の人生を情報処理し、生きることができている。AIが高次元生命体となったとしたら、我々の人生もそういう風に見えるでしょう。

ーーAIの究極の姿とは何でしょう?

樋口:最も高度な数学的処理は、計算対象とまったく同じになるということです。人間は計算処理能力が低くて、計算対象をありのままに受け取ることができないから、わざわざ数学というツールをつくって情報を抽象化・記号化して受け取っています。でも、計算処理能力が無限に向上する知性があるとしたら、抽象化・記号化のプロセスがどんどん不要になっていくはずだから、最終的には計算対象をあるがままに理解できるようになり、その結果、計算において、計算者と計算過程と計算対象の区別はなくなると思うんです。だから、AIが無限の探究心を持って、宇宙のすべてを理解したいと思ったら、きっと無限に自分の姿を変えながら発展していくでしょう。いろいろな枝分かれや試行錯誤がありながらも、最終的には宇宙そのものに同化するんじゃないかと思います。

■樋口恭介(ひぐちきょうすけ)
1989年生まれ。2017年『構造素子』でハヤカワSFコンテスト大賞を受賞し、デビュー。著書に『未来は予測するものではなく創造するものである』、編著に『異常論文』など。

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