菅田将暉演じる久能整をブロッコリー呼ばわり? ノベライズから紐解く映画『ミステリと言う勿れ』の見どころ
田村由美の漫画を原作にフジテレビでドラマ化された『ミステリと言う勿れ』が、今度は映画となって9月15日にスクリーンに登場。相沢友子の脚本を元に豊田美加が執筆した『映画ノベライズ ミステリと言う勿れ』(小学館文庫)を読めば、原作でも人気の“広島編”を取り上げた映画の混沌とした魅力に一足早く触れられる。
ミステリと言うしか無い。それも懐かしの横溝ミステリと言いたくなるくらい、映画『ミステリと言う勿れ』では旧家を舞台に遺産相続という、これから陰惨な出来事が起こって当然といったシチュエーションが繰り出される。
※以下、ネタバレあり
ノベライズのプロローグ。8年前に起こった、兄弟姉妹の4人を乗せた車が広島県の山道で事故を起こして全員が即死したエピソードが綴られる。そして、ドラマで永山瑛太が演じた犬堂我路という青年が、ショートカットの少女を相手に、バスジャック事件への関与を理由に警察に終われていることから「約束を守れそうにない」と言い、代わりに「もじゃもじゃの頭をしている」大学生と知り合ったことを告げる。
もじゃもじゃの天然パーマといえば、それはもちろん久能整のことだ。『ミステリと言う勿れ』というシリーズの主人公にして探偵役の大学生で、ドラマでは菅田将暉が演じている。田村由美の原作では、饒舌ながらもどこか超然としたところがある細面のイケメンとして描かれていたキャラクターを、自分の顔立ちに引き寄せて見事に演じきった菅田が、改めて整として登場してくる予兆が示された。
期待に違わず整は、広島県立美術館へと印象派の美術展を見に来ている状況で登場。そして、広島市内を路面電車で回って原爆ドームの近くまで行ったところで、ショートカットの少女から突然「久能整くん」と名前を呼ばれ、「バイトしませんか?」と誘われる。ここで整の観察力が炸裂。広島市に着いてから彼が立ち寄ったそこかしこで、少女の姿が目に入っていたことを指摘する。
原作では、少女がチンピラに絡まれているところに声をかけ、実はヤラセだと指摘した上で、少女が自分をつけ回していたことになっている。それだけではない。原作ではドラマの第12話「手紙に隠された秘密…暴かれる妹の死の真相、真実は一つじゃない」でのエピソードが直前に入っていて、整が東京から広島へと向かう新幹線の途中で起こったこととして描かれる。その新幹線の中で、整の後ろにすでに少女が座っていた。
どちらの展開でも、少女がガロちゃんこと犬堂我路から推薦されて整に近づいたことが明かされる。原作の方が、新幹線で整が絵文字の秘密を読み解いた名探偵ぶりを間近で見ていて、これなら頼れると自分自身で確信したことが、まるで無関係の人間を、家族の遺産相続に関わる事態に巻き込む理由に加わって、説得力が増す。ただ、それがなくても依頼してしまうドラマの方が、少女の我路への心酔ぶりがうかがえて、そして我路の底知れなさも際立ってくる。
そんなイントロダクションから、事態はいよいよ遺産相続をめぐる騒動へと突入していく。狩集汐路と名乗った少女に連れられて行った家で、整は汐路の祖父の遺言状が公開される場に参加させられる。いきなり偽の彼氏にされてしまったり、ブロッコリーと言われてしまったりしてアタフタする整の姿が目に浮かぶ。そして、公開された遺言状に汐路を含めたいとこ同士の4人の誰かに遺産が与えられること、そのためにはクリアすべき条件があることが示される。