栗本 斉の『モンパルナス1934』レビュー 「歴史的価値と娯楽性を見事に両立させた、最高にユニークなストーリー」

 さらにユニークなのは、最初のエピソード1とラストのエピソード14だけは、川添の没後の物語であり、村井邦彦自身も登場することだ。エピソード1は川添の思い出をなぞるかのように村井と梶子がカンヌを旅し、その後のエピソードから1934年へと一気に時間が遡る。最後のエピソード14ではYMOがアメリカで成功したことを伝えるニュースで締めくくるのだが、そこからアヅマカブキの海外公演を成功させて、日本文化を世界に広めていった川添が、いかに村井に影響を与えたのかを感じ取るのは難しいことではない。そして、なぜこのような物語を書き綴ったのかということが、しっかりとエンディングに落とし込まれているのはさすがだ。

 川添に関する資料は非常に少ないそうだが、それでもひとつひとつ丹念に取材を重ねた吉田俊宏と、川添浩史の功績を少しでも後世に伝えたいという村井邦彦の熱い想いが、この大作『モンパルナス1934』にぎっしりと詰め込まれている。歴史的価値と娯楽性を見事に両立させて、最高にユニークなストーリーを作り上げた二人の作者には、盛大にスタンディングオベーションを贈りたいと思う。

■書籍詳細
タイトル:『モンパルナス1934』
村井邦彦 吉田俊宏 著
発売日:2023年4月30日
※発売日は地域によって異なる場合がございます。
価格:3,080円(税込価格/本体2,800円)
出版社:株式会社blueprint
判型/頁数:四六判ハードカバー/384頁
ISBN:978-4-909852-38-0

モンパルナス1934特設サイト:https://blueprint.co.jp/lp/montparnasse1934/
blueprint bookstore:https://blueprintbookstore.com/items/64366f9e427a88002f502e94

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