『元彼の遺言状』『競争の番人』の新川帆立、“レイワ”を舞台としたSFリーガル・ミステリーで新境地へ
そして第六話「接待麻雀士」は、「健全な麻雀賭博に関する法律」により、賭け麻雀が合法化された例和三年が舞台。この法律により、賭け麻雀を使った賄賂が横行している。接待麻雀士が巧みに負けることで、相手に金を渡すのだ。プロ雀士から接待麻雀士に転向した塔子は、いつものように接待麻雀を打とうとするのだが……。
イカサマこみで相手を勝たせようとする塔子。勝負の場面は、純然たる麻雀小説のようである。しかし物語が進行すると、賄賂を受け取るはずの相手の不可解な打ち方が露わになっていく。巧みな伏線と、「動物裁判」と同じく、繰り返し出てくる主人公の心情が布石となり、接待麻雀の予想外の真実が明らかになる。元プロ雀士だった作者ならではの、麻雀ミステリーになっているのだ。
さらに各話から、レイワの時代に対する、人々の反逆心が伝わってくる。それは法律を始めとする社会の制約に息苦しさを感じる、令和の私たちの心と、通じ合うものといっていい。さまざまな物語で作家としての可能性を示めしながら、ずっしりとしたテーマを読者に投げかけているのである。