自称・日本一嫌われているクロちゃんが病まないのはなぜ? 心が折れない指南書からみるすごいセルフケア

 お笑いトリオ「安田大サーカス」メンバーのクロちゃんが強烈なインパクトのある本を刊行した。題して『日本中から嫌われている僕が、絶対に病まない理由 今すぐ真似できる! クロちゃん流モンスターメンタル術30』(徳間書店)。そのタイトルの通り、炎上芸人クロちゃんが本気で伝えるメンタル管理術を詰め込んだ、心をセルフケアする実用書に仕上がっている。

 本書は「ご存知だとは思いますが、僕は嫌われ者です」という一文から始まる。特にテレビ番組『水曜日のダウンタウン』(TBS)に出演するようになってから、ネット上などで「クズ!」「嘘つき野郎!」といった罵詈雑言を日々浴びるのだそうだ。しかし、クロちゃんは決して病むことなく平然としている。それは「鋼のメンタル」の持ち主だからだろうか? 否、「ガラスのメンタル」なのだと告白する。ただ、普通の人よりも、ダメージを回避する術を知っているというのだ。

 そうしてクロちゃんはメンタル管理術や人間関係構築方法を包み隠さず伝授する。そのなかでも、ひとつの大きな軸となっているユニークな視点は「他罰的思考」だろう。メンタルを病んでしまうのは、生真面目に自分を追い詰めてしまうからで「日本人は不真面目になるべき」だと力説しながら、「悪いのは自分じゃない!」という考え方が重要であると指摘するのだ。

 具体的な悩み事例に対しても思考法を提案する。絶対に自分を責めずに、他人が悪いことにするのがポイントだ。剣道の試合で負けてしまったのは、コーチの教え方が悪い。受験に失敗したのは、良い塾に通わせてくれなかった親が悪い。飲食店経営者が赤字で悩んでいるときには、看板娘が力不足だから、もしくは客が高尚な味を理解できずに舌が貧しいのではないか、云々。

 「本当にそんな甘い考え方で良いんだろうか?」という声も聞こえてきそうだ。しかし、クロちゃんは「無責任で自分の失敗と向き合っていないように思えるかもしれませんが、僕はそれで大いに結構だと思っています」と喝破する。たしかに上記の例を読んでいると、どこか明るいコミカルさがあるとも言える。実際、自分がどこかの飲食店で食事をしている状況で、店主が「客の舌が貧しい」などと悪口を言っていたら笑ってしまいそうだ。さらにクロちゃんに続けて「精神的に余裕があるときは、大いに反省すればいい。でも反省ばかりして精神崩壊しちゃったら、元も子もないですから」とまでダメ押しをされると、それはたしかに一理あるかもしれない、と思えてくるはずだ。

 本書の魅力は、一般的なメンタルケア本とは違って、「こんなこと書いて大丈夫?」という本音が赤裸々に綴られていることである。上記の事例ひとつとってみても、普通だったらもうちょっとオブラートに包んだ言い方をするだろう。「自分を責めたらダメ」といったことを指南する本はあるかもしれないが、「他人がダメだと思うべし」とまで言い切ることはない。「客の貧しい舌が悪いと思え」などと公に書けるのはクロちゃんだけなのだ。しかし実際、私たちが社会のしがらみの中でイライラしたり、悩んだりしているとき、きれいで正しい言葉だけで自分を鼓舞するというのは、不可能なのかもしれない。さらにもっといえば、そういう生真面目な言葉だけで処理しようとするからこそ、メンタルは病んでいくのだろう。

 クロちゃんの一貫した姿勢は「とにかく自分を貫け」ということ。「あとがきに代えて」では次のような熱い思いが語られている。「正直、世の中はつらいこともたくさんありますよ。呼吸することすらしんどいと感じることが僕だってあります。人間は必ず失敗するし、後悔だってする。でも自分のスタイルを貫き通したら、少なくとも自分の人生を生きているんだという実感を持つことができる」。意識の高いメンタルケア本についていけない人には、ぜひとも読んでほしい、タレント本の域を大きく超えた一冊だ。

関連記事