小松左京の未完の大作『虚無回廊』をプログレに? 異色のバンド・金属恵比須が語る、ロック×文芸の可能性
SFは、やっぱりアナログシンセ
――『虚無回廊』は1980年代後半から1990年代前半に書かれた小説ですけど、『虚無回廊』組曲のシンセは1970年代風ですよね。
高木:小説中にシンセサイザーの話がいっぱい出てきて、想定されているのはデジタルシンセの未来的なものだろうなと思いつつ、あえてアナログシンセにこだわりました。小松左京や安部公房はアナログシンセが大好きだったというし。
――1970年代のサウンドにこだわるプログレ・バンドらしい選択だと思います。
高木:やっぱりアナログな音なんですよね。イメージでいうとレトロフューチャー。ギターも旧い音を出していますし、キーボードもそれにあうものを選定しています。バンドでは楽器の時代考証を必ずやっていて、1975年以前のものを使うのが原則なんです。それより新しいポリフォニックシンセを使う時は理由が必要で、稟議書が必要(笑)。
――あと、組曲のなかでインパクトが大きいのが、ヘビーメタル調で昭和アイドル歌謡風でもある「魔少女A」。これには、聖飢魔Ⅱのデビュー前のメンバーで初期曲を書いたダミアン浜田のプロジェクト、Damian Hamada’s Creaturesでの経験が反映されているのでは。
高木:かつて聖飢魔Ⅱの担当だったソニーの方が金属恵比須を知っていて、「小松左京音楽祭」をみにきてくれたんですね。劇伴のお仕事をされている方なのでサントラ大好きな方なんです。その関係で金属恵比須のメンバーが改臟人間になってDamian Hamada’s Creaturesに参加したんです(メンバーはみな変名。高木氏は「大地“ラスプーチン”髙木」)。ダミアン浜田陛下の作品をアルバムで3作ほど演奏して、陛下の作曲法がわかってきたので自分でも作曲してみました。そんな冗談のような曲だから、アルバムの最後にちょこっと入れようかくらいに思っていたんですけど、実はこの曲こそアルバムのキーなんじゃないか。メロディがポップということで、歌入りという意味では実質1曲目として収録したんです。
――「魔少女A」は聖飢魔Ⅱへのオマージュでありつつ、中森明菜「少女A」へのオマージュでもあり、『虚無回廊』の人工実存を歌ってもいるという三重の意味を持った曲。
高木:メンバーから「「少女A」に似たところがあるよね」といわれ、Damian Hamada’s Creaturesに「魔皇女降臨」という曲があったし、「魔少女A」に決まりました。最初は『虚無回廊』に使うかわからなかったけど、小説のヒロインがアンジェラでイニシャルがAだからそのAにしようと急遽決まりました。ダミアン浜田陛下にはお褒めいただいてホッとしました。
――ダミアン浜田陛下はそのミュージックビデオについて、ドラマ版『エコエコアザラク』(黒魔術を使う少女が主人公)を彷彿とさせるとおっしゃっていましたね。
高木:プログレッシブ・アイドル、XOXO EXTREME(キス・アンド・ハグ・エクストリーム)の浅水るりさんをキャスティングしたのは、ボーカルの稲益とキーボードの宮嶋のアイデア。XOXO EXTREMEとは以前、コラボでアネクドテン(スウェーデンのプログレ・バンド)をカバーし、僕が彼女たちに曲を書きました(「Hibernation(冬の眠り)」。そしてまたコラボでエイジアをカバーします。
――『虚無回廊』というアルバムは、小説に基づいた組曲以外にも伊福部昭作「ゴジラvsキングギドラ メインタイトル」のカバーがあり、渡辺宙明氏(戦隊シリーズや『マジンガーZ』など特撮やアニメの音楽の大御所)から生前に作曲指導を受けた「星空に消えた少年」もジュブナイルSF風。アルバムは全体的にSF色が強くて1970年代の東宝、東映の映像作品を見ているような思いがしました。
高木:そこらへんは狙った感じです。ちなみに「星空に消えた少年」のビデオの監督は『映画 えんとつ町のプペル』のアニメーション監督、『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』の監督・佐野雄太ですが、僕と稲益の高校の同級生です。
――渡辺宙明氏が音楽を担当した『人造人間キカイダー』の主演俳優・伴大介氏が渡辺氏の曲を歌い、金属恵比須が演奏したCD『春くれば2022』が10月にリリースされ、そこでは『キカイダー』の曲もリメイクしていました。最近の金属恵比須は、SF特撮路線を邁進している感がありますけど、『虚無回廊』を締めくくる「巡礼」はゴリゴリにプログレな曲。
高木:当初、僕はキング・クリムゾンを意識したこの曲を入れるのに反対したんです。オマージュは「魔少女A」だけでいいと思った。でも、この曲がないとアルバム全体としてボーカルが前面に出すぎてしまうので、ゴリゴリのプログレが1曲あってもいいかと最後に配置しました。結果的に入れてよかったと思います。
今回のアルバムは、いつになくアナログシンセを使っています。キーボードの宮嶋だけでなく僕もけっこう弾いています。「虚無回廊 オープニングテーマ」は、宮嶋がメロトロン、僕がそれ以外のキーボードを弾いているし、キーボードが主役になる曲をいっぱい入れたいというのがありました。SFは、やっぱりアナログシンセですよ。今回の『虚無回廊』は、ジャケットも音も最高傑作だと自負しています。文庫3冊とCDのセットも数量限定で発売します。「読んでから聴くか、聴いてから読むか」と、小松左京先生の世界を小説と音楽で楽しんでほしいですね。
■リリース情報
金属恵比須『虚無回廊』
発売日:2022年12月7日
価格:2,700円(税抜)+税
【収録曲】
1.虚無回廊 オープニングテーマ
2.魔少女A
3.誘蛾灯
4.人工実存
5.虚無回廊 エンディングテーマ
6.星空に消えた少年
7.「ゴジラvsキングギドラ」メインタイトル
8.う・ら・め・し・や
9.巡礼