和風シンデレラストーリー×妖怪退治の『龍に恋う』に注目! ラノベ最新ランキング考察

 富士見L文庫といえば、アニメ化が決まり、Snow Manの目黒蓮主演による映画化も発表となった『わたしの幸せな結婚』が、シリーズ累計300万部のヒット作となっている。明治・大正を思わせる和風の日本が舞台のシンデレラストーリーに人気があると見たからか、同じレーベルから黒崎蒼『せつなの嫁入り』や相沢泉見『大正着物鬼譚 花街の困り事、承ります』といったシリーズが登場して、ちょっとしたジャンルを作っている。

 そうした中でも、ぐっと存在感を高めて『わたしの幸せな結婚』と並びつつあるのが、道草家守著、ゆきさめイラストの『龍に恋う 贄の乙女の幸福な身の上』シリーズだ。Rakutenブックスのライトノベル週間ランキング(5月9日~5月15日)で、最新刊『龍に恋う 四 贄の乙女の幸福な身の上』が7位に入って、注目度が高まっている。

 14歳で上京して16歳になるまでに10回、奉公に入って10回とも解雇されてしまった珠は、寒空の中を歩きながら、口入れ屋(職業斡旋業)を訪ねて次の奉公先を見つけてもらおうと考えていた。その時、犬のような獣が足元を走って行ったと思ったら、前を通ろうとしていた男の足が引っかかって転んでしまい、その濡れ衣が珠にかかってしまう。珠には見えた獣が男には見えなかったらしい。

 怒り心頭の男に絡まれ揉めていたところに現れたのが、容姿端麗な青年で見えなかったはずの獣を捕まえて男に突きつけ、珠を助けて自分は口入れ屋の古瀬銀市だと名乗る。お礼を言いつつ珠は銀市に仕事を紹介して欲しいと頼み、「まず言うのがそれなのか」と銀市を呆れさせる。

 それでも銀市は、男には見えなかった動物、実は妖怪のすねこすりが見えた珠に興味を持って店へと連れて行く。そこは確かに口入れ屋だったが、人間だけでなく妖怪の職業斡旋もする不思議な店で、妖怪が見える珠を雇い入れ、店の仕事を手伝わせることにした。

 こうして始まった新しい暮らしに、珠はすぐになじめた訳ではない。故郷で神様に捧げる生け贄として育てられた過去から、自分は世の中に必要のない存在だと思い込んでいるところがあった。見捨てられないために頑張りすぎてしまうところもあって、それが銀市の家では空回りとなって他の妖怪たちから疎まれる結果を招いていた。

 ますます追い詰められる珠だったが、銀市からどれだけ自分が愛されているかを教えられ、幸せになって良いんだと諭されたことで珠の人生が大きく動き始める。報われなかった人生がひとりの男性と出会うことで上向きになる展開は、『わたしの幸せな結婚』と同様に、読む人に夢をもたらし希望を与えてくれる。頑張ることを否定されない行き方に触れて、自分に自信を持てるようになる。人気の理由もそこにあるのだろう。

 帝都を舞台に妖怪たちが関わっていそうな不思議な事件に、珠と銀市が関わっていく展開がシリーズの軸となるストーリー。第1巻では、帝都で起こる女中の相次ぐ失踪事件の謎に挑む。最新の第4巻では、銀市の店で古くから働く猫又の瑠璃子が銀市の店を辞め行方をくらましたことを端緒に、人を魅了し操る謎の存在との戦いが繰り広げられる。

 シンデレラストーリーにして伝奇バトルでもあるシリーズの行方やいかに? 『わたしの幸せな結婚』同様に人気となり、実写化となって銀市や珠を誰が演じるかにも興味が向かう作品だ。

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