芥川賞・直木賞は書店にとってどんなイベントなのか? 大盛堂書店・山本亮が綴る、楽しい思い出

 また個人的に思い出深いのが第159回直木賞受賞作、島本理生さん『ファーストラヴ』。恋愛や人間の業を繊細に描いてきた島本さんの作品は、ずっと注目しているし読み続けているが、刊行前に『ファーストラヴ』のゲラを読んだとき、島本さんのキャリアのなかでも特別な欠かすことができない小説だと強く感じた。以前からから島本さんにはご縁があったけど、店頭での販売やトークイベントを開催したり、周囲にもこの作品の意義の深さを伝えてみたりと、個人的にも書店員としても力を入れて販売してきたつもりだ。そして受賞の報道が出た瞬間、芥川賞直木賞に何回も候補になられたけど、島本さんが今回報われて本当に良かったとしみじみ感じられた。もちろん賞が小説の価値を決めるすべてではないけど、こういう想いが出てしまうのもこれまで積み重なったこの賞の歴史と意義、そして受賞した小説家の方々の喜びやプライドに感化されたのだと、今となっては思えるのだ。

 現場ではどの作品でも受賞して欲しいが、その中から選ばれた物語は、少しの時間に許された甘くご褒美のようなお菓子みたいな存在ではないだろうか。たぶん多くの読者や書店員は、その時間をたっぷり蓄えた次の素晴らしい作品を期待して待ち望んでいると思う。今回の受賞を機に、直木賞・芥川賞や本屋大賞など改めて「賞」という存在を考えてみても良いのかもしれない。

関連記事